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2022.7.18掲載  社説「時々刻々」

安倍元首相を悼む 日本は宝を失った

論説委員長 田村耕一

 日本は大きな宝を失い、悲しみに包まれた。安倍元首相の暗殺事件に対してである。しかも事件が奈良で起こった。英、米、仏、印、台湾をはじめウクライナから露国までもが弔意を伝えてきた。安倍元首相がいかに信頼され、世界各国への影響力を持った大政治家であったか伺われよう。
 安倍元首相は「日本を取り戻す」を政治テーマとして取り組み、世界のリーダーと渡り合った。それが、自由で開かれたインド太平洋構想や、日米豪印のクアッドとして実現した。このような世界的スケールの外交を成し得た政治家は、これまで日本にはいない。  また、現行憲法の不備を声高に唱え、日本の安全保障に正面から取り組まれた。中川昭一氏なきあと、保守の旗手として、日本の自立と国防に注力された。
 第一次安倍内閣では、国民投票法、教育基準法の改正をした。第二次安倍内閣では、スパイ天国と揶揄(やゆ)されていたわが国に、特定秘密保護法を成立させたほか、安全保障関連法を制定した。
 その間、野党やマスメディアは、やれ「モリカケ」だの、やれ「桜を見る会」と騒いだ。今、そのメディアは、今回の事件をこぞって民主主義への挑戦であるとか、卑怯な言論封殺であるとか叫ぶが、その言葉がいかに空虚なものか分かるはずだ。ウクライナの例を見ても、機能不全で無力な国連の様が見てとれる。ロシアの無法はもとより中近東において、民主主義を標傍する米国の所業もいかに非道なものであったのか。自分の国は自ら守るという基本を忘れた民族に将来はない。
 一方、経済面における成果も大きい。リーマンショックやデフレからの脱却を図るべく、積極財政を取り入れ、「アベノミクス」を経済政策の柱に据えて、大規模な金融緩和策を推進した。事件現場である奈良はもとより、日本各地に設けられた献花台は、いずこも長蛇の列である。故人を偲(しの)ぶ人々の姿を見た時、国民目線での安倍元首相の評価は明白だ。
 問題は警備態勢である。警察庁で今回の警備方法が適正であったかどうか検討されている。しかし、素人目にも警備上の不備は否定できまい。要人に対する警備で、日本はこのような粗雑な国であると世界に発信してしまった。この失墜した信用の回復には時間がかかるだろう。
 それにしても日本は大きな支えを失った。


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