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2022.6.13掲載  社説「時々刻々」

中小企業の休・廃業抑止 事業承継、M&Aも選択肢の一つ

論説委員 寺前伊平

 新型コロナウイルス感染症がいまだに終息しない中、県内の中小企業の休廃業、事業停止が続く。その多くは、経営者の高齢化が悪く作用し、事業承継がかなわなかったところに原因がある。
 日本の経済はある意味、下支えする中小企業の存在が大きい。世界に冠たる「モノづくり」の現場で、次々と廃業などに追い込まれているのである。新型コロナの影響を考えると、企業が元気なうちになぜ数々の手だてを打てなかったのか。国の施策の後付け感が、拭えない。 
 そんな中で、岸田政権の「新しい資本主義」の柱の一つとして出てきているのが、中小企業庁の「経営者保証」案だ。創業時の融資で経営者保証を求める民間銀行などの慣行にメスを注入する。経営者保証に依存しない融資のほか、それ以外の資金調達として、投資ファンドからの出資や企業の合併・買収(M&A)の活用も含まれる。
 M&Aというと、多くの中小企業経営者にとっては「乗っ取られる」という暗いイメージが常に付きまとってしまう。そうではなく、前向きに考えることが重要。会社を新しい経営者に売却することで、事業を存読させることが可能になる。新経営者がさらに事業を発展させてくれる、というポジティブな思考だ。
 確かに、M&Aには大きな決断がいるが、それ以上にメリットの方も大きい。創業者の思いがこもる社名がそのまま残り、従業員の雇用も存続される。会社が廃業・倒産すれば、従業員は新しい職場を探さなければならない。その家族も路頭に迷うことになる。
 取引先との関係が継続されることで、間接的に取引先を守ることもできる。また、経営者の個人保証を解除できる。さらに会社を売却すると、保証人を買い手企業が引き継ぐことになり、債務保証を解除できて心理的な負担がなくなる。
 とはいうものの、相手があっての話。なかなか簡単にいくとも限らないのが現実。県信用保証協会は、信用保証を通じて中小企業への円滑な資金繰りを支援しようと、SDGs貢献に関わって保証料率を割り引く新たな保証制度を設けた。
 コロナ禍にあって、円安や部材の高騰が追い撃ちをかけ、危機的な状況にある。中小企業向けの各種補助金を活用するなどしてどう乗り切れるかは、経営者の勇気と決断にかかっている。


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