奈良県内の政治経済情報を深掘

2022.6.6掲載  社説「時々刻々」

議員報酬の削減論 1%への過熱は狂気か

論説委員 染谷和則

 気温の上昇とともに参院選の熱も上がってきている。防衛や医療、福祉をはじめとする各党のマニフェスト(公約)も出そろっている。ここで一つ注目したいのは定数や報酬の課題。ある党は国会議員の定数3割減、報酬2割減にまで踏み込んでいるが、地方議会を見ると、人口減少や高齢化に伴うなり手不足が深刻化しており、過度の削減による懸念はさらに増すだろう。
 都道府県、市区町村議会の1年間の予算は、一般会計のうちの1%ほどだ。家計に換算した場合、世帯年収600万円の家庭に例えると、年6万円、月額5000円について、喧々諤々の議論をしている状態。
 総務省の統計によると「平成大合併」が始まった平成16(2004)年に3100あった市町村は、現在1724まで減少している。これは44%もの自治体の減少。これに伴い、市町村議会、議員数も大幅に減少している。
 奈良県には39市町村があるが、隣県で人口規模が似ている三重県は29市町村、滋賀県においては19市町村しかない。奈良県は全国でも平成の大合併が進まなかった土地柄で、町村が多く残っている。行政の効率化、スリム化を進めるため県は「奈良モデル」なる施策を推進するが、合併ほどの効果は難しい。
 同省や全国町村議会が令和元(2019)年にまとめた町村議会の現状では、町村議の全国平均報酬は21万4533円で大学卒業の初任給程度。1町村当たりの定数は12人だ。この報酬額で将来、職業政治家を志す若者が出てくるかどうか。
 それが如実に出てくるのが全国町村議の平均年齢。全体の平均は64・2歳だが、60歳以上は全体の77・1%、60歳未満は22・9%しかいない。年々町村議の高齢化が進み、さらにはなり手不足が生じてきている。
 少子化に伴う人口減少は国全体の大きな課題。これに伴う議員の定数の削減は避けられないだろうが、過度な報酬の削減は、さらになり手不足を生じさせる。政治は悪とのイメージを有権者に付けさせてしまった過去があるのは間違いない。しかしながら、近年の重箱の隅を集団でつつき、つるし上げる風潮は、全体のたった1%しかない議員報酬を削減させようとする過激な議論にも通ずる。
 政治家をわが子や孫が志すようになったとき、果たして勧めることができるか。

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