奈良県内の政治経済情報を深掘

2022.5.16掲載  社説「時々刻々」

氾濫する情報にかすむ真実 行き過ぎた正義の怖さ

論説委員 染谷和則

 新型コロナウイルス感染症の流行後、初めて行動制限のなかった大型連休は、観光地の奈良らしく、県外からの車を多く見かけ、交通量が明らかに増えた。国土交通省が3年前に行った調査では、ドライブレコーダーの搭載率は45・6%だった。現在は50%を超えていると見られている。
 全国的にはこの大型連休で「あおり運転」と見られる事件が何件かあり、被害を受けたとする人が動画をSNSに投稿したり、ニュース番組に提供して流すなどの事例があった。
 客観的な記録や証拠として有効なドライブレコーダーだが、疑問を持つようなものもある。県内で言えば、警察の取り締まり場所の情報を共有するようなSNSがあるが、ここに「煽られた」として画像を投稿。ナンバーを「晒したる」などと過激な人もいる。
 高速道路で停止させるなど、誰の目にも明らかな犯罪行為とは異なり、これらの画像や動画の投稿は、断定が困難。断片的であったり、前後の脈絡が不可解であったりする。しかしながら晒すことは「正義」と信じ、過激さはよりエスカレートしていく。
 芸能のゴシップもそう。「晒し動画」などと個人のプライベートを、「聞いた」とか「見た」とか極めて感覚的で乏しい証拠のまま公開し、金儲けに走ることが流行っているようだ。行き過ぎ、ボタンを掛け違えた正義感の行方は恐怖さえ感じるご時世だ。
 総務省の令和3年の「情報通信白書」によると、インターネットの閲覧は68・3%がスマートフォンになっている。カメラや動画に加えて録音も手軽にできるデバイスを老若男女誰もが手にし、日常的にこの道具から情報を得ている。この使い方にも行き過ぎた正義感や悪意があれば、もはや真実を見失う。
 知床遊覧船の沈没事故で亡くなった男性のプロポーズの手紙が公開された。愛する人へ伝えるため、おそらく一字一句を大切に選び、書き上げたことが真実。ただ、これは二人だけのものだったのではないか。
 事故の悲惨さを伝え、再発防止に務める〝正義〟のためとはいえ、これを公表する報道機関や関係者に嫌悪感を抱く。監視社会、証拠社会の中、誰もがスマホをはじめとしたデバイスに記録して公表できる時代だからこそ、真実だけは見失わず、情報の真贋を見極めなければならない。

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