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2022.3.28掲載  社説「時々刻々」

県内中小企業の経営力 「人への投資」で事業再生へ

論説委員 寺前伊平

 「人への投資」を積極的に求めた今年の春闘は、連合傘下の産業別組合が出した要求に対して、経営者側の「一発回答」という異例の決着が注目された。これは、新型コロナの影響で先行きがいまだ見えない中「働く者の意欲を引き出す」ため、賃金改定を重要視した表れである。
 帝国データバンクが最近発表した「2022年度の賃金動向に関する企業意識調査」でも、そのことは如実。今年度に賃金改善があると見込む企業は54・6%で、前年度見込みと比較し、12・6?も増加。2年ぶりに5割を上回った。
 中でも「ベースアップ」は46・4%(前年度比10・5?増)で、令和元(2019)年度の45・6%を上回り、過去最高水準となった。賃金改善の理由として、「労働力の定着と確保」が76・6%で最多だった。
 中小企業の多い県内でも、人手不足が深刻さを増している。製造業、小売業にとっても、「人への投資」は欠くことのできない要素。また下請けやOEM(他社ブランド製品の製造)からの転換が余儀なくされている。
 そこで県は、下請けなどの製造業者のブランド力を伸ばし、売る力を強化した。結果、松屋銀座、阪急うめだ店、阪神梅田店などへのブランディングをもとにしたBtoC(企業が消費者を対象にしたビジネス形態)の機会が増加。今年度の年間出店延べ数は、約70事業者で前年度から倍以上に増えた。
 これは、コロナ禍における企業努力に他ならないが、企業はハイセンスな土産物や贈り物などの商品開発に突き進む時期に来ているとも言える。そんな中、政府はコロナ禍で苦しむ中小企業の事業再生や資金繰りを支援する「中小企業活性化パッケージ」を発表した。
 支援は▼中小企業向け事業再生ガイドラインを活用した私的整理に補助金を支給▼収益改善や事業再生を支援する協議会を全都道府県に設置▼日本政策金融公庫の資本性劣後ローンを来年度末まで継続▼政府系金融機関の実質無利子・無担保融資を6月末まで延長。
 これを受けて県は、売り上げ回復のための新事業創出や、新分野への進出など経営力向上支援(補助率3分の2、補助上限額50万円)に、新年度8億4000万円を予算化した。経営者、社員ともどもモチベーションを高めるためには、賃金改善が最も体感できる。

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