奈良県内の政治経済情報を深掘

2022.2.14掲載  社説「時々刻々」

コロナ禍の気付き 新規事業のチャンスも

論説委員 染谷和則

 新型コロナウイルスの感染拡大で、ここ数年の県の観光需要は落ち込んでいる。令和2年の県内観光客数は前年比41・7%減の2623万人、観光消費額は54・3%減の826億円だった。これに呼応して飲食店も独自に時短や休業日を増やしている。しかしこんな困難な時こそ、また生活様式が変化した今、合致するサービスもある。
 今号報じた新規事業を展開する新設会社の日本ルームサービスは、ニッチな市場を開拓しようとしている。安価に宿泊できる奈良市内のホテルへ、仕出しのように食事を運ぶ。ホテル近隣の飲食店の営業時間が短かったり、コンビニで食事を買い求める利用者を見て、「ぜひ奈良のものを」とサービスの展開を考えたという。
 ホテルとウィン・ウィンの関係を大切にしている。ホテル側もコロナの影響は大きく、人員の削減やホテル内の飲食ができる店の営業時間を短縮している。奈良を感じさせる本格的な食事を部屋まで運んでくれ、かつホテルに手数料を支払ってくれるこのサービスに歓迎のようだ。また宿泊客の満足度が高まることで、ホテルの付加価値が上がる。
 このご時世、不特定多数が集まる店舗への来店を禁じている会社もある。個室で高級ホテルのルームサービスのようなサービスを受けることができるのは、ビジネスマンや一人旅や少人数の旅をする人にとってもメリットが大きい。
 同社の起業のきっかけは当たり前を疑った視点にある。安価なビジネスホテルの利用者が夕食をコンビニで済ませている、せっかく奈良に来てくれたのだからそれを変えたいと思ったのがきっかけ。ホテル側にもプライドがあり、館内に入ってくるこのサービスは敬遠されるかと思いきや、歓迎された。
 美食家で有名な北大路魯山人は「食道楽も生やさしいものではない。とにかく、かつての日本人の衣食住は、すべて立派であった。国外に遠慮するものあったら、それは間違いだ」と言葉を残している。
 日本らしい、また奈良らしい本物を手軽に、パーソナルなスペースで楽しめるようにするこのサービスは、今はまだ隙間市場かもしれないが、伸びしろは大きくある。
 大きな変化があるこんな時代だからこそ、新しい視点と気付きがビジネスを変える。

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