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2021.11.1掲載  社説「時々刻々」

2022年春闘の行方 労使で「分配のゆがみ」解消へ

論説委員 寺前伊平

 厚生労働省がまとめた2021年の企業の賃金引き上げ実態に関する調査結果によれば、一人平均賃金の引き上げを実施(予定を含む)した企業は80・7%で、改定額(同)の4694円ともに前年を下回った。
 また、定期昇給制度がある企業でベースアップを行った(行う含む)割合は、管理職15・1%(前年21・5%)、一般職17・7%(同26・0%)。コロナ禍で、いかに各企業が基本給を引き上げるのに慎重になっているかが読み取れる。
 そんな中で経団連(十倉雅和会長)は18日「2022年春闘」の経営側の指針を発表。そこには、収益が高い水準で推移・増大した企業にはベア実施を含め、「新しい資本主義の起動にふさわしい賃金の引き上げが望まれる」と明記した。
 逆に業績不振の企業については「事業継続と雇用維持を最優先にしながら、自社の実情にかなった対応を見い出すことが望まれる」とし、複数年度での賃上げ検討も提案したのだ。
 これは、岸田文雄首相が目指す「成長と分配の好循環の実現」に向けて、経団連も呼応した形だが、かつてない視界良好な指針ともとれる。首相は消費を回復させ、企業の投資や生産の増加につなげるため、今春闘で3%を超える賃上げをすることに期待感を示す。
 一方、労働組合組織率が低下傾向にある連合(芳野友子会長)は、経団連より先にWEB方式を併用しての中央委員会で、2022春季生活闘争方針を決めている。連合奈良(西田一美会長)に加盟する労働組合など、全国すべての労組が月例賃金の改善にこだわる姿勢を示した。
 連合の賃上げ要求指標は、定期昇給相当分を含めて4%としている。加えて、奈良県内に高い比率で多い中小企業やコロナ禍が大きい産業で働く労働者も厳しい状況があり、男女間賃金格差が固定化していることも強調。根っこには「分配のゆがみ」があるとし、「人への投資」を積極的に求める「未来づくり春闘」を展開する構えだ。
 ただ、新型コロナ感染症拡大が長引き、体力が弱い中小企業の経営存続が懸念される。債務が膨らんでいるところもあるだろうし、返済が滞ればすぐに経営が行き詰まることも考えられる。南都銀行など全国銀行協会も、大企業よりも債務の返済期間を長くするなどの柔軟な対応に出てきた。
 今年の春闘。労使とも笑顔で春を迎えられることを望まずにはおれない。

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