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2022.1.10掲載  社説「時々刻々」

ドローンも森林経営に登場必至 伐採して再植林の重要性増す

論説委員 寺前伊平

 昨年はアメリカを震源地とする、木材の世界的な供給不足と価格高騰「ウッドショック」に何とも身動きがとれない状況に見舞われた。悲しいかな、森林資源があるのにもかかわらず、木材高騰に対応できないでいた日本の林業のぜい弱さを、改めて感じさせられる一年だった。
 このことは、県内林業でも同じこと。林業従事者が高齢化するとともに少なくなり、後継者難が依然として深刻化している。そのため、伐採を増やそうにも林道整備がなかなか追いつかないのが実状である。木は植林して50年を超えると伐採期にあたる。伐採した跡地に再植林するのが通常だが、それができていない割合が予想以上に多いと言われている。
 この循環林業体制がいつまで経っても戻ってこないことを、数字で見ることができる。令和2(2020)年の日本の国内自給率は前年比4?増の41・8%。何が増えたのかと言えば、バイオマス発電の燃料用の木材である。建築用の木材は増加の兆しすらない。川下での木材建築が普及していかないと、県内産の木材需給が進まない。
 そこで、政府は次年度から競争力のある林業への転換に向け経営支援を本格化させる。〝救世主〟にドローンやITを導入し、レーザー測定で森林の情報を集めてコスト削減、効率化を目指す。加えて、森林資源の循環利用を加速させ、脱炭素政策にもつなげる。
 ドローンは造林作業の運搬にも使い、遠隔操作機械による伐採で安全性を高める。現在、スギやヒノキの立木価格はピーク時だった昭和55(1980)年の約10%と低迷。事業者のモチベーションが下がっている中で、計画的な伐採や再植林の重要性が増してきている。 県が昨年4月に吉野町内に開校させた「フォレスターアカデミー」。1年コースの森林作業員が来年度から、晴れて森林環境管理作業士として、県内の森林組合や事業体に送り出される。その地域で、組織の活性化と県産材の利活用促進を担う人材を育成する。
 ドローンを活用した政府の林業経営支援に呼応する形で、県は令和7(2025)年までに、各市町村へ配置される2年コースの森林環境管理士(県フォレスター)を含め新規就業者数の目標を285人におく。
 どうにかして、儲(もう)かる林業が構築できないものか。思い切った新しい国の施策の他、金融機関を含めた連携が欠かせない。

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