奈良県内の政治経済情報を深掘

2021.11.15掲載  社説「時々刻々」

債権放棄審議の裏で政治干渉 退場願いたい絶滅危惧種

論説委員 染谷和則

 奈良市の新斎苑用地の取得額が高すぎるとして住民団体が市長と地権者2人に損害賠償を市に払うよう求めた裁判の判決確定を受け、市が市長への債権を放棄しようとした議案は、市議会が賛成少数で否決した。賛成は実に6人のみで、党派を超えて32人の市議が反対した。
 この裁判の動きをめぐっては、今夏の市長選、市議選から市民運動とは名ばかりの行き過ぎた〝政治干渉〟が散見された。市議選妨害とも取れる、候補者自身のSNSに「債権放棄が出れば賛成か反対か」と迫る者、アンケートと称して同様の質問を現職に送付し、「回答しなければその旨ネットで公表する」と迫る者…。先日の小欄ではこれらを〝プロ市民〟と定義した。 
 今回、市から議案が上程された時点では賛否が拮抗していた。奈良市・山辺郡選出の自民党県連執行部の県議が幅を利かし、市長与党として影響力を出す「自民党・結の会」(10人)は近年、この県議派と反県議派で、意見が真っ向から対立することも。
 債権放棄についても賛否が分かれていた。そこへ、地元メディアのオーナーと〝自称〟する者が同会派に乗り込み「債権放棄の議案に賛成せよ」と迫った。この政治干渉事件、本紙は会派を超えた複数から証言を得ている。これを受けてかどうかは定かではないが、賛否が拮抗していた同会派は一気に反対へと流れた。どうやら逆効果だったらしい。
 賛成か反対かその態度は、選挙で選ばれ市民の負託を受けた市議が各々で考え議論するもの。メディアであろうと市民であろうと、市議に干渉して迫るなど横暴極まりない。   ネット社会の恩恵を受け、誰もが発信できるメディアにもなれるし、市民活動も多角的に行える。こんなに時代が進んでも、何かを振りかざして干渉する前述のような人種がいることに驚く。変化に対応できていない絶滅危惧種だが、保護する必要はない。
 表現の自由が憲法で保障されている以上、意見を表明することにまったく異はなく、小欄の意見も同様。ただ、意見と干渉はまったく非なるもの。交渉と干渉もまったく違う。市長や市議会はその地の民意だけでなく、民度も映すというが、議案審議の裏にあった政治干渉の民度はどうか。恥ずべき民度と言わざるを得ない。
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