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2021.5.31掲載  社説「時々刻々」

22市町村の介護保険料値上げ 見えてくる介護現場の課題

論説委員 寺前伊平

 各市町村が保険者として運営にあたる介護保険制度に基づく介護保険料が、県内でも4月から改定された。3年ごとに介護サービス量の見込みを立て基準月額を決めるが、22市町村で値上げし県平均で5851円になった。  県下全体で3・2%の値上げから読み取れるのは年々、少子高齢化の波の中で65歳以上の高齢者が増え続けていることで、要支援・要介護認定を受ける人の数も増加していること。加えて、介護に携わる従業員が不足していること。労働条件が良くないことで、やむなく職場を離れていく人が多い。
 これは何も奈良県だけに限った問題ではない。介護が必要な要介護者に認定されながらも、施設に入所できないだけでなく、各家庭においても適切な介護サービスを受けられない、いわゆる「介護難民」といわれる高齢者が増えている。
 身体の衰えは、多かれ少なかれ誰でも訪れる。体力・気力とともに、まず足から衰えは進行する。これには手だてがある。足を常に動かし、運動を日常生活の中で常態化することで、筋肉はほぼ回復する。内臓に異常なく食欲旺盛であれば、自然と気力も取り戻せる。 老化には循環器系、神経系に不安を抱えている人にリスクは高い。そして、本人は元気だと思っていてもある日突然、忍び寄ってくるのが認知症である。物忘れがひどくなったなどという、単純な患いではないことに家族が気付くのである。
 今まで支えてきた記憶が次第に壊れていく。不安が積もり、家族や周囲の人に不信を抱くようになり、暴力をふるってしまうことも。養介護施設で介護する人たちの日々を思うにつれ、低賃金のままでは介護の質の向上は図れないだろう。
 民間の有識者会議「日本創成会議」は、令和7(2025)年に全国で約43万人が介護難民になる、と予測している。それに合わせ、深刻な課題は高齢者が高齢者を介護する「老老介護」、介護する人と介護される人の双方が認知症を発症している「認認介護」である。
 読売新聞社の調査では、政令市や県庁所在地など主要74自治体の約8割にあたる61市区で、介護施設の入所者の枠(定員)を増やす整備計画(平成30~令和2年度)を達成できなかったことが浮かび上がった。
 養介護施設や介護労働が抱える課題は、多岐にわたる。介護の質の保障と人材の量的確保は重要な政策課題である。外国人介護労働者の参入を含めた、介護労働そのものの位置の確立を急がなくてはならない。
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