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2021.5.17掲載  社説「時々刻々」

新型コロナ 判断できない政治 政界に広がる〝感染〟

論説委員 染谷和則

 決められない政治はいつまで続くのか―。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて国会では、野党が東京五輪の中止、または延期を求めて菅義偉総理に迫ったが、わが国のトップは「感染対策を講じて開催する」との答弁を繰り返した。
 この時ばかりは野党より政府の答弁の情けなさが際立った。とにもかくにもオリンピックファースト。大きな投資を経た五輪の開催は命や安心・安全よりも優先順位を高くしているように見える。この感染拡大の中、開幕まで2カ月。
 各自治体では新型コロナのワクチン接種で大きな混乱が起きている。電話回線がパンク、インターネットを不得手とする高齢者が不安に思い、役所窓口に来てしまったり、誰しもがこのワクチンを今か今かと待ちわびている状態だ。
 ワクチン接種は当初、医療従事者、高齢者、基礎疾患のある人、これらの方々に対して優先することになっていたが、大型連休後、IOCの意向や、ワクチンを製造する米国のファイザー社が、各国(地域)の選手団に無償提供することを決め、政府はワクチンを五輪に参加するアスリートへ優先接種する検討をしている。政治が、命の優先順位をつけ始めたと言っても過言ではない。
 旅行業界、宿泊業界、飲食業界、緊急事態宣言や感染者増など、明るい兆しが見えぬまま、苦しみながら日々を必死に生きている方々へのワクチンの接種はまだない。最前線で治療に当たる医療関係者以外の職業で優先順位が決められることは平等の精神から大きく逸脱している。政治の力はもうこの程度か。
 県内でも感染状況は改善していない。ただ1人を除き、ほぼ全ての人が緊急事態宣言の要請を願っている「ちぐはぐな政治」がまかり通っている。「エビデンス」などと訳のわからぬ言葉を知るより、人の痛みを知る政治家をどれほど欲しているか。
 命や健康はもちろんだが、新型コロナウイルスの恐ろしさは、まさにここではないかと痛感させられる。決められない政治、大衆の声が聞こえない政治と〝大感染〟が広がっている。いったい何を待っているのか。待っていて状況が好転するエビデンスはなさそうであれば政治家が自ら動き、決めなければならない。政界に感染が広がり、既に職務放棄が広がっている。
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