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2021.3.29掲載  社説「時々刻々」

人口増への自治体の本気度 出産前から公金拠出を手厚く

論説委員 寺前伊平

 少子高齢化社会ーと、簡単に一言で片付けられない数多く問題があることに、今さらながら考えさせられる。第一に「子育てするのにお金がかかるけれど、そもそも子育てするお金がない」という深刻な事情だ。少子化の裏側を見ると、経済的な不安が占める割合が大きいと言わざるを得ない。その意味で、日本の非正規雇用労働者率が平成29(2017)年の統計で、37・3%まで上がっているのは見逃せない。
 正規雇用され、賃金が世間並みにもらえる場合はいいとしても、非正規雇用のまま生活していくとなれば、不安が付きまとう。結婚したいが、現状のままでは解決の糸口を手繰り寄せることができない若者も多い。
 ではどうすればいいのか。結婚し出産して子どもを育てていくための環境に、自治体が率先して変えていく必要がある。葛城市は県内の自治体では初めて、高校生までの医療費を平成31(2019)年から無料化にした。そのこともあり人口が増えてきている。
 出産可能とされる15歳から49歳までに1人の女性が産む子どもの数の平均を示す「合計特殊出生率」。「奇跡の町」といわれる岡山県・奈義町は、平成17(2005)年の合計特殊出生率1・41を、平成31(2019)年には2・95と2倍超に伸ばした実績を持つ。
 同町が14年かけてここまでたどり着いた要因は、経済的不安を取り除くため出産前から高校卒業時まで、具体策を提示し本気で取り組んだところにある。不妊治療費助成、出産祝い金、中学卒業までの児童手当支給、高校3年間1人年9万円援助、高校生までの医療費無料と、切れ目なく公金を拠出している。
 一方で、妊娠を希望しているのに妊娠が成立しない不妊症の問題もある。夫婦5・5組に1組が不妊治療を受けているといわれている。原因は男性にある場合も。この不妊治療の助成制度が1月から拡充され、令和4年4月から保険適用される。また、厚労省の推計で毎年約3万人が発症しているという、妊娠しても流産や死産を繰り返す「不育症」への検査費用の負担も軽減される。
 岡山・奈義町から学ぶことは、出産前の不妊治療助成から高校生までの医療費無料まで、子どもが成長していく過程で、親の経済的負担にどう向き合うかだ。各自治体が本気で公金を子育てに手厚く使う。出生率は上がっていくに違いない。
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