奈良県内の政治経済情報を深掘

2021.3.15掲載  社説「時々刻々」

増え続ける空き家問題 宇陀市の「体験住宅」に学べ

論説委員 寺前伊平

 少子高齢化のその裏で「空き家」が日本中で問題化している。奈良県もその類にもれない。数年前に桜井市初瀬で空き家の持ち主との連絡が取れなく、崩壊の危険性が伴うため、やむなく行政代執行に踏み切った例は、記憶に新しい。
 平成30(2018)年の総務省の住宅・土地統計調査では、全国の住宅総数は6240万7000戸で、そのうち空き家は848万9000戸だった。空き家率は、13・6%となり、7軒に1軒が空き家になっているという、最新の数値である。
 奈良県はどうか。これよりも10年古い総務省の統計になるが、平成20(2008)年の空き家率は14・6%で全国平均(13・1%)よりも高く、47都道府県中18番目だった。県下の空き家率ベスト5は順に、大和高田市(25・7%)、御所市(22・1%)、王寺町(18・2%)、五條市(18・0%)桜井市(16・0%)―だった。ただ、奈良県の場合は県内に居住し、県外に就業・進学に出ている人の割合が全国1位という実態がある。そのような空き家は、腐朽・破損がほとんどなく、使途の定まっていない空き家が多いのも確かだ。
 大阪のベッドタウンとしての特徴を活かす観点からは、高齢者の持ち家へ若年世帯の居住を促すなど、空き家利活用への取り組みが急務になっている。平成27(2015)年施行の空き家対策特別措置法とは別に、各自治体独自で条例を制定し、移住に関心のある人への空き家呼び込みも重要となってくる。
 そんな中で、宇陀市は新年度から仮称「宇陀の魅力移住体験住宅」と銘打って、一定期間空き家に滞在してもらい、最終的には空き家に移住してもらう計画を進めている。
 そのための第1号として、市は近鉄大阪線室生口大野駅近くの空き家の持ち主(県外在住)との今月中の買い上げ契約を進めている。契約が済めば、空き家の改修費用などを市で工面し、「移住お試し住宅」として募集をかけるという。
 第1号は、国史跡・大野寺弥勒摩崖仏を間近に眺められる風光明媚(び)な所。市は反響が良ければ、市内の他の地区でも空き家整備をしていく方針で、「自然や文化財が豊富な市の魅力を知ってもらい、移住につなげたい」としている。
 新型コロナ感染症がまだ収まらない。この1年間、とくにテレワーク導入とともに都心部から地方への移住が注目されてきた。空き家の利活用が定住へと広がっていくよう、自治体も真剣勝負に出るべきではないか。 
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