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2020.12.21掲載 社説「時々刻々」
新型コロナ 経済派、感染防止派の極論 今こそ多様性の尊重を
論説委員 寺前伊平
新型コロナウイルスの感染拡大とともに、大和路は一気に冷え込み、人の往来が目に見えて少なくなった。新型コロナ分科会が「中止」を提言してもごり押しした政府の「Gо Tо キャンペーン」は急ブレーキ、全国で一斉に一時停止の措置が取られることになった。奈良のホテル、宿泊施設もキャンセルや混乱が相次いでいると聞く。 東京都を除外して始まった「Gо Tо キャンペーン」は、当初から賛否両論あった。自民党内の二階派によるごり押し施策との批判や、なぜ観光業だけとの批判、さらにはキャンペーンを活用して「普段よりいいとろ」を利用するユーザーニーズと受け入れる宿泊施設側の〝ズレ〟が「リピーターにつながらない」といった施策の有効性や継続性に疑問があった。 当初から経済の立て直しを求める派と、徹底した感染防止を求める派の双方から「アクセルとブレーキを同時に踏むようなもの」と批判を受けた「Gо Tо キャンペーン」。しかしながらその批判は正しいとは言い難い。 アクセルとブレーキを同時に踏むことは、自動車競技の運転技術にある。「音速の貴公子」と称えられたF1ドライバーの故・アイルトン・セナは、右足でアクセルを踏み、左足でブレーキングを行っていた。エンジンの回転数を落とすことなく減速し、コーナーを曲がったところで素早く加速する技術だ。 これはもちろんプロドライバーの話。しかし新型コロナウイルスの脅威を前に、アクセルを踏もうとする経済派、ブレーキをかける感染防止派と分かれて議論してしまう現在、最も恐ろしいのはこの極論だ。また今年の一字に選ばれた「密」が怖い。集まるという意ではなく「密告」の怖さだ。 政府がキャンペーンを停止しようが、仕事をはじめとする経済活動の往来や宿泊は止めようがない。これに対して第三者が正義感で密告したり、苦情を言うケースが後を絶たない。キャンペーンの停止でこれらの行為の増加も危ぐされている。極論を元に自身の正義感を振りかざして価値観の違う他者を咎める構図だ。 コロナに限らず生きる上でアクセルもブレーキも必要。どちらかという世論の醸成は危険過ぎる。今こそ多様性の尊重を。
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論説委員 寺前伊平