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2020.10.5掲載  社説「時々刻々」

「アビガン」承認申請を考える 県立医大に「薬学部」の併設を

論説委員 寺前伊平

 新型コロナウイルス感染症の猛威はいまだに収まる気配がない中、経済や観光面など様々な分野で大きな影響が出ており、予断を許せない状況となっている。ただ徐々にではあるが、経済活動活性化に向けた取り組みで、国民に対する国の対応に柔軟な一面も出始めてきている。
 視点を世界に移すと、新型コロナによる死亡者が、ついに100万人を超えた。県内では9人(9月30日現在)の死者。季節も10月に入り、新型コロナとインフルエンザの〝ダブルパンチ〟に襲われるのではないか、という懸念も出てきている。
 そんな中で朗報が入った。富士フィルム富山化学が、新型コロナウイルス感染症の患者に行った新型インフルエンザ治療薬「アビガン」の治験について、一定の有効性が示されたというのだ。安全性の面でも、新たな懸念は認められなかったという。
 同社は今月中にも、新型コロナの治療薬として承認申請する予定でおり、承認されれば、抗ウイルス薬「レムデシビル」、抗炎症薬「デキサメタゾン」に次いで、国内では3例目の新型コロナ治療薬となる。
 富士フィルム富山化学は、工場拠点を富山県におく。写真フィルムの世界から医薬品開発へと見事な転身を遂げた。奈良県の製薬業は御所市、橿原市、高取町、明日香村を中心に、古くから「奈良の置き薬」として富山県と肩を並べるほど、全国的に知られている。
 ただ、奈良県の医薬品の生産金額は平成24(2012)年の520億円をピークに減少傾向にあり、同30(2018)年の458億円は全国30位台に甘んじている。全国トップクラスの富山県の薬業の売上数千億円には、到底及ばない。
 富山県を代表する大学の一つ、富山大学には医学部と共に薬学部がある。一方の奈良県立医大やその他の大学を含めても、県内には薬学部は見当たらない。その辺の事情も大きく関係していると言わざるを得ない。
 県は現在、県立医大の教育・研究部門を令和6(2024)年以降の移転・新設に向け、計画を進めている。この機会に、将来を見据えての「薬学部」併設を考えてもいいのではないか。
 薬学部卒業後、大和平野南部に集積する既存、新設の製薬会社などで、医薬品の研究をさらに進める人材を輩出できれば、奈良県の医薬品研究の発展につながるはずである。しかも、富士フィルム富山化学のような大手医薬品メーカーの研究所を誘致するのに、大きなメリットとなると考える。
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