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2020.8.17掲載  社説「時々刻々」

増える未婚の身寄りがない高齢者 新たな支え合う仕組みが必須

論説委員 寺前伊平

 先日、厚生労働省から令和元(2019)年の日本人の平均寿命が発表された。女性は87・45歳、男性は81・41歳。男女とも過去最高を更新し、世界の主要な50の国・地域では女性が5年連続で2位、男性は3年連続で3位。コロナ禍の中での明るい話題である。
 医療技術の進歩で、死因で最も多いがんや心疾患などによる死亡率が低下したこと、健康意識が向上していることが、平均寿命アップにつながっていると見ていい。ただ、日本の将来の窓をのぞいてみると、身寄りのない単身高齢者が増える傾向にあり、手放しでは喜べない裏側が見えてくる。
 平成27(2015)年の国勢調査によれば、65歳以上の独り暮らしの高齢者は約592万人(男192万人、女400万人)。男性はリタイヤした後、女性と比較して極端に会話の回数が日々遠のく。そこで、社会的課題として待っているのが孤独死である。
 ひと昔前までは、一つ屋根の下に3世帯が同居し、お互いのさまざまな話に耳を傾け、会話も弾んでいた。これが本来の「家族の風景」だった。それが、時代とともに核家族化に歯止めがきかなくなり、高齢者から一人抜け、二人抜けていった。
 何よりも深刻なのが、未婚による身寄りのない高齢者が増え続けていくということだ。日本における75歳以上の高齢者は、令和34(2052)年まで増え続け、ピークを迎える。それに並行して認知症高齢者、未婚化による身寄りのない高齢者、孤独死していく高齢者が多くなっていくのである。
 こうした人たちの生活支援、財産、環境、安全を人権という立場でどう寄り添っていくのか。誰もが手を差し伸べなければならない時代が必ず来るとすれば、それが社会的使命ではないだろうか。
 10年後の令和12(2030)年の65歳以上の男性の未婚率は、11%にまで膨れ上がるという推計がある。未婚の高齢者は配偶者もいなければ、子どももいないということでもある。身元保証、死後の事務手続きなどの問題が発生する。
 日本福祉大学の藤森克彦教授は、週刊東洋経済の中で「公的機関のもつ信頼性と民間サービスの柔軟性を組み合わせることが、1つのポイント。新たな支え合いの仕組みが求められる」と記す。
 国連が2030年を行動目標にした持続可能な17の開発目標「SDGs」の目標3に「すべての人に健康と福祉を」が掲げられている。長生きし、終の棲家で安らかな最終段階を迎えるには、継続的なコミュニケーション無しでは成り立たない。
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