奈良県内の政治経済情報を深掘

2020.6.1掲載  社説「時々刻々」

脱インバウンドへ コロナ後の観光 内需型観光へ転換の時代

論説委員 染谷和則

 新型コロナウイルスの緊急事態宣言が解除され、徐々に日々の経済活動が再開されている。しかし景気のいい話は皆無。さまざまな業種で厳しい声を聞く。その中でも特に観光は厳しさを増す。中国をはじめとするインバウンドに国、県がこぞって力を入れてきたが、中国マネーに依存した観光業の構造は、元通りにはならないし、戻すことも大きな危険があることが教訓になった。
 コロナ収束後をにらみ政府は「Go Toキャンペーン」と銘打って1兆7000億円を盛り込むなど、令和2年度第2次補正予算案を閣議決定した。7月以降、観光、飲食をはじめとする国内需要を喚起していく考えだ。具体的には、観光宿泊費の50%(最大2万円)をクーポンなどで支援するという。これらはインバウンド施策ではない。
 奈良は魅力的な観光地として、国内外に知られている、これは県の地道な観光プロモーションの努力もあるだろう。しかしその一方で観光を快く歓迎していない県民もいることに触れなければならない。奈良市の中心地は、観光旅行客やそれらをターゲットに商売する方々の「非日常組」と、観光に関係なく暮らしている「日常組」が混在している。この日常組は、観光による恩恵は何も受けていない。
 この新型コロナの混乱で、さまざまな意見が出始めている。日常組からは「昔の奈良に戻ったようでいい」「ごみの投棄がなく街が綺麗になった」「大きな声で言えないけど、このままが良い。感染の怖さもあるし、もう来てほしいと思わない」などなど―。非日常組の観光業の悲鳴とは裏腹に、日常組が日ごろ耐えてきたものから解放されている。
 「多様性」と聞こえの良い言葉があるが、このコロナの混乱が残したものがあるとすれば、大きな脅威の前に、生業や生活様式が違うそれぞれの立場では、どうしても寛容になれないもの、譲れないものが出始めたということが挙げられる。 
 労働人口の潤沢さを武器に急激な経済成長を遂げた中国に対し「来てくれ、来てくれ」と一辺倒の施策では、我慢を続けてきた日常組の県民の理解はもはや得られない。国内、県内の内需に知恵を絞らねばならない新しい時代になったというのは間違いないだろう。
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