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2020.5.11掲載  社説「時々刻々」

輸入依存の食料事情を考える 国内産の小麦・大豆拡大へ

論説委員 寺前伊平

 新型コロナウイルス感染症拡大に伴う「緊急事態宣言」が31日まで延長されることとなった。医療現場でのひっ迫した状況を考えれば、やむを得ない政府の判断だったのかもしれない。
 ただ密閉、密集、密接のいわゆる「3密」の回避のなかで、一般の社会生活、経済活動が危機的な状況に陥っていることは、火を見るよりも明らかである。一刻も早く終息に向かい、何よりも市民生活や経済活動が復活することが重要である。
 もう一つ、今回の「新型コロナ」感染・拡大で教えられたことは、世界中から食料の輸出規制がかかれば、日本は到底太刀打ちできないだろうということである。この機会に世界的な食料不足からくる日本の食料事情の今後を考えてみたい。
 日本の食料自給率(カロリーベース)は、平成30(2018)年度では▼米98%▼野菜73%▼砂糖類34%▼果実32%▼大豆21%▼畜産物15%▼小麦12%。全体では37%と、世界的にみても低水準に甘んじている。昭和40(1965)年度の73%と比較して極端な落ち込みようだ。
 このうち、小麦はアメリカ、カナダ、オーストラリアからの輸入に依存。大豆についてもアメリカの輸入が72%と大きく、ブラジル、カナダと続く。
 「新型コロナ」感染・拡大で、農家の経営が苦しくなれば、ますます食料自給率が下がる懸念がある。さらに、これら物流の9割を支える海運労働者の確保が、極めて厳しい状況にあることも見逃せない。
 今こそ、日本農業の生産性向上のため、新たな考え方が重要ではないだろうか。物が日本で足りない、物が海外から届かない―の〝二重苦〟に陥らないためにどうすればいいのか。答えは一つ、日本国内で物を作らなくてはならないことにつながるのである。
 奈良県内では、平成23(2011)年に立ち上げた農事組合法人アグリ大泉(桜井市)が、地元産の良質な小麦(10・2㌶)、大豆(9・9㌶)の生産・販売にいち早く乗り出した。水豊かな2つの河川の合流地点に広がる58農家が結束し、「こだわりの品種、こだわりの製法」で高い評価を得ている。
 国内で生産基盤を強化し、国民の不安を取り除く政府の施策がのぞまれるところである。農業形態の改革も含めて、意欲のある農業従事者には、積極的かつ厚い予算措置が必要である。「新型コロナ」感染・拡大の折であるからこそ、日本の食料安全保障については疎かになってはならないと考える。
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