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2020.3.9掲載  社説「時々刻々」

首相の「断腸の思い」とは裏腹に 「うとい」現場感覚での遅れ

論説委員 寺前 伊平

 安倍晋三首相は先月29日夕、突如として首相官邸で記者会見をし、新型コロナウイルスの感染拡大防止のための小中学校などの臨時休校要請について国民に理解を求める発言を初めて口にした。
 身内のことで大変恐縮だと思うのだが、その次の日の3月1日、九州・福岡の実妹からラインが届いた。4月5日に予定していた甥(おい)の結婚式を延期したという内容だった。甥と連れ合いとなる彼女は、遠方から来る人のことを思うばかり、プランナーと相談し決断したというのだ。
 「良い判断だよ」と返事をしたものの、安倍首相の唐突な記者会見と比較して、「政治の中央にいる人は何と現場感覚にうといのだろう」とさえ感じられた。予約済みの結婚式場一つとっても、予想もしなかった痛手を被ったことになる。
 それはさておき、一斉休校を「断腸の思い」で行ったという、安倍首相による記者会見では大きく6つのことが耳に飛び込んだ。▼保護者に対しては、休職で所得が減ることの対策として、正規・非正規問わず「新助成金制度」を創設する▼企業に対しては、「雇用調整助成金」を1月までさかのぼって支給する▼緊急対応策としては、2700億円超の予備費を活用した、第2弾緊急対応策を10日程度で策定する。▼PCR検査については、この1週間で医療保険を適用し、直接、民間への検査依頼が可能となる▼検査時間は、今月中にウイルス検査を15分程度に短縮する簡易検査機器の利用開始を目指す▼立法措置としては、国民生活への影響を最小限にするための立法措置を進める―ということだ。
 厚生省は今月末まで、幼稚園・保育園・小学校などに通う保護者に対して、年次有給休暇とは別に有給休暇を取得させた企業に対し、1日最大8330円の助成金制度を実施した。県は企業への支援策について、通常より有利な条件で運転資金などの融資を受けられる「経営環境変化・災害対策資金」や「セーフティーネット対策資金」を利用できるよう配慮。感染者の入院に対応できる病床も24床から40床増加し、計64床を確保し、今後も増床を図るという。
 それでも、刻々と感染者の動向に変化が起こる日々。子どもの長期間休校。高齢者への心遣いはもちろんだが、家族が多様化している現代、共働き家庭、一人親の家庭へ充分に目が届くのか。廃業の一歩手前で人手不足に直面する中小企業、小規模事業者へ支援策が行き届くのか。治療薬の見極めとともに終息へ早く向かってほしい。


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