奈良県内の政治経済情報を深掘

2020.1.20掲載  社説「時々刻々」

各市町村で運用が異なる「避難行動要支援者名簿」 「現場」に提供し、有事の体制づくりを

論説委員 染谷 和則

 災害時に一人で避難することが難しく、介助が必要な障害者や高齢者らの「避難行動要支援者名簿」の更新や運用が、自治体の頭を悩ませている。個人情報保護の観点から名簿掲載の同意を得にくいことや、名簿提供先を限定する必要があることなどが悩みの根底にある。
 この名簿作成は災害対策基本法で定められ、国が各市町村に義務付けている。奈良県内では39市町村すべてで名簿が作成されており、半年や1年、2年などで更新され、消防や消防団、民政委員、自主防災組織、自治会などに提供されている。しかし、この提供先は各市町村でバラバラ…。消防団や自主防災組織に提供していない自治体もある。
 高齢化が進み、奈良県の平成30(2018)年度の高齢者(65歳以上)は40万9335人となり、高齢化率は30・8%に上昇した。20年前の平成12年度(2000)年度の16・6%から倍増に近い高齢化率になっている。有事の際、高齢者の避難が困難になることが予想される。また世帯分離や核家族化が進み、高齢者の一人暮らしも増加している。隣近所と日ごろの「お付き合い」が希薄になった今日、災害時における孤立化も懸念される。
 避難行動要支援者名簿には、要介護認定を受けている人や障害のある人、難病患者などに加えて「70歳以上の独居」「75歳以上の独居」「自ら掲載を希望した者」「支援が必要と首長が認めた場合」など、各市町村独自の運用部分がある。
 身体的理由や高齢化、独居などの理由で、避難が一人でできるか不安がある方はぜひとも各市町村の防災担当部署へ問い合わせ、自身が名簿掲載の対象になるか確認をしていただきたい。
 今後いつ発生するかわからない大規模地震に加え、近年は集中豪雨や台風などの被害も全国各地で発生しており、日ごろそれぞれが防災意識を高めることが被害を最小限にとどめることにつながる。
 個人情報の観点から名簿の提供先は各市町村でバラバラになっているが、全国では運用の条例を制定し、マンションの管理組合にまで広げている自治体もある。
 災害時の共助は必ず現場から。6000人以上が犠牲になった阪神淡路大震災から四半世紀の節目、有事に備え考えたい。


menu
information