2024.12.16掲載 コラム「而今」
東京都板橋区の踏切で起きた痛ましい事件は、職場における人権侵害の極致を物語っている。塗装会社の元社員が、長期にわたる執拗な暴行と精神的追い込みの末、命を絶たれた事実は、社会に深刻な問いを投げかける▼捜査関係者の証言によれば、被害者は「次にミスをしたら死にます」といった屈辱的な念書を繰り返し書かされ、会社社長らから3年以上にわたり暴行を受けていた。人間の尊厳が完全に踏みにじられた状況下で、被害者はもはや逃げる術さえ失っていたのだろう▼彼らは被害者の苦痛に対して何の罪悪感も持たず、むしろ支配と破壊に快感すら覚えていたかもしれない。ゲーテの言葉を借りれば、「人間が本当に悪くなると、人を傷つけて喜ぶこと以外に興味を持たなくなる」が、まさにここに体現されている▼多くの人身事故の中で、今回のケースが明らかにされた意義は大きい。過去に自殺として処理されてきた類似の事件が、実は隠された犯罪だった可能性すら感じさせる▼被害者がどれほど絶望的だったか、想像するだけで胸が張り裂ける。(佑)