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2022.6.20掲載  社説「時々刻々」

広がる〝貧しさ〟 「清貧」もう一度

論説委員 染谷和則

 外国人観光客の受け入れが再開され、奈良の各地で訪日客の姿を目にするようになってきた。日本政策投資銀行株式会社と公益財団法人の日本交通公社が昨年、アジア圏と欧米を対象に実施したアンケート調査では、新型コロナが落ち着いたら行きたい国の1位は日本だった。
 新型コロナで冷え込んだ飲食や観光をはじめとした業界が、外国人観光客の受け入れ再開で盛り上がることは歓迎したい。その一方、外国の方々がなぜ日本に訪れたいと思っているのかは、変化してきているのではないか。
 観光立国の政策として「美しい国日本」というスローガンがかつてあった。世界各国からの外国人を受け入れ、駅や公共施設の看板やアナウンスも英語、中国語、韓国語と整備した。建国から約2700年、世界一を誇る歴史や文化、美しい四季、治安の良さなどが日本の「売り」だった。
 14日に内閣府が公表した「男女共同参画白書」では20歳代男性の40%が、女性の25%がデートの経験がないことが分かった。また恋人や配偶者がいないのは20歳代男性で70%、同女性で50%。結婚の意思がないと答えたのは、30歳代の男女で25%にも上った。
 それぞれが個人を大切にしたりと時代の変化もあるだろうが、野田聖子少子化担当大臣は「収入面もある」と分析しており、若者らが経済的に厳しい状況にあることが、恋人や配偶者を必要としない、またはできない側面を指摘。急激な物価高、経済的貧困は確実に広がっている。
 貧しさはそれだけではない。新型コロナ対策の国の「持続化給付金」をだまし取ったとして10人が詐欺容疑で逮捕される事件があった。この中には東京国税局の職員も。納税者として怒りを覚える言語道断の事件だ。人をだます、詐欺をはたらくという心の貧しさもしかり、国全体が貧困化している。
 外国から見た日本はどう見えているのか。かつての憧れや羨望はまだ残っているのか。アフターコロナに行きたい国で1位になっている要因は、世界各国と比較して相対的に物価が安く、治安が良く、衛生的。ただそれだけの国になりつつあるのではないか。貧しくなった、そんな危機感も覚える。
 清貧。先人が守ってきたこれだけは、未来永劫守り、訪れる外国の方々と共有できればと願う。


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