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2022.5.2掲載  社説「時々刻々」

近鉄の運賃値上げに物申す 時機を得た県の公聴会開催要請

論説委員 寺前 伊平

 近畿日本鉄道株式会社(近鉄)が厳しい事業環境に陥っていることを理由として、来年4月から全線を対象に普通運賃で平均17・2%の値上げを国土交通省に申請した。これを受けて荒井正吾知事は4月20日、同省に公聴会の開催を要請した。
 記者会見で荒井知事は「県民へのサービスなしで負担だけを求めている。これまで地域との共存共栄を図り、輸送人員の確保につながる取り組みをしてきたのか、検証したい。私も公聴会に出席して追求したい」と強い口調で述べた。県試算では、県内の近鉄の乗車人数は年間延べ1億3000万人。値上げによって県民の年間負担額は総額50億円になるという。
 県はこれまで、鉄道駅のバリアフリー化や鉄道駅を中心としたまちづくりの推進を図る観点から、近鉄に対し支援を行い、さまざまなプロジェクトの提案を行ってきていることを強調する。
 明治43(1910)年、大阪と奈良とを結ぶ大阪電気軌道をルーツとする近鉄。周辺の数々の鉄道会社を合併して昭和19(1944)年に発足した。日本の私鉄では最長の営業距離を誇る。
 奈良県を抜きにしては語れない存在でもありながら、なぜか県との不協和音がささやかれているのも確か。県のまちづくり推進を絡めた提案があっても、近鉄は膝(ひざ)を突き合わせた話に応じて合意に至ったケースを聞いたことがない。
 例えば、国の特別史跡で世界遺産に登録された平城宮跡を近鉄電車が通り抜けていることは、以前から問題視されてきた。県、奈良市、近鉄の3者では話がまとまらず、昨年3月になって国が間に入る形で、これまで移設に反対していた近鉄が譲歩し合意に至った。しかし、移設完了まで40年かかる話だ。
 最近では、県立医大の新キャンパス移転計画で、鉄道新駅設置早期実現に向け、知事は八木西口駅との併存と近鉄側の新駅設置にかかる費用負担軽減を新たに近鉄に提案。近鉄は八木西口駅廃止を強く求めて、県の提案が成立しなかったことも。
 荒井知事の座右の銘は「無私愚(ぐ)直精進」。県民感情になり替わっての口上は当然である。過去からの両者のしこりがあるとするならば、最終的には県民のためにならない。近鉄は公聴会開催を機に大局を見据え、物事が大きく進む一歩として捉えてほしい。

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