奈良県内の政治経済情報を深掘

2021.12.27掲載  社説「時々刻々」

県民の定住ニーズ低下 ストップ空洞化

論説委員 染谷和則

 奈良に住み続けることを望む若い人の割合が、低下している傾向が県のアンケート調査で分かった。過疎化、少子化が加速する県の東南部を中心に、住み続けることのできるふるさとの創造は、もはや待ったなしの時を迎えている。
 住み続けるため、最も必要なのが経済活動を行う場、雇用の場所だろう。新型コロナウイルスの影響で、忘年会シーズンにもかかわらず、県内各地の駅、また駅を拠点に広がる街の飲食店や小売などの業種では景況感は「いまいち」との声が漏れる。
 新型コロナウイルスに振り回されたこの2年間、ふと気が付けば閉店している店が目につく。奈良市の中心地、近鉄奈良駅の商店街が交差する繁華街でも「テナント募集」と記されたシャッターがちらほら…。 
 また以前、本紙でも報じたが、新型コロナに乗じて中国資本が奈良市内の旅館やホテル、歴史ある古民家などへ買収を持ちかけている例がいくつかあった。街は少しづつ、少しづつだが、確実に活気を失ってきており、第三者が不動産の取得を狙っている向きもある。
 これら奈良市中心地の場所にあり、歴史がある南都銀行の本店(本館)が移転することが決められた。大正15(1926)年に建てられた登録有形文化財の建物の活用について南都銀行は「奈良市の観光の中心地にあることから地域バリューの向上に資するようホテルや商業施設等としての利活用を検討する」としている。
 南銀はまた「共同店舗化」として、新本館の建設に合わせて3支店を閉鎖。経営の効率化をなお一層進める。少子高齢化、人口減少などにあおりを受け、こちらも「待ったなし」の事情を推察すると、移転や「共同店舗化」を批判することはできないが、シンボルを失う街の空洞化は避けられまい。
 市役所や駅があり、それを中心にまちが広がる構図は、全国各地の事例を見ても同様。シンボルを失い、衰退した商店街や街そのものは、歴史を見れば明らかだ。現在の南銀本館の今後の利活用については、銀行だけでなく、行政が共に考え、持続可能なまちづくりを進めなければならない。
 まだ見えぬ青写真―。この写真の出来栄えが、奈良市中心地の未来を大きく左右する。南銀のキャッチコピー「おもしろい銀行」に期待したい。

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