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2021.12.6掲載  社説「時々刻々」

国スポ会場、交換整備〝破談〟 橿原市の市政運営に影落とす

論説委員 寺前伊平

 10年後の令和13(2031)年に県内開催が内々定している国民スポーツ大会(国スポ)と全国障害者スポーツ大会。県立橿原公苑と橿原市営橿原運動公園を交換しての一体的な施設整備が、橿原市議会の反対多数を受けて、荒井正吾知事は断念を表明した。
 非常に残念に思えてならないのは、約2年前に橿原市の方から「一体的整備」の要望書が出され、協議に関する覚書を交わし、それに基づいての双方の協議が〝雲散霧消〟してしまったことである。それにも増して、県が同市に示していた具体的な提案書の中身を見る限り、何ら市議会が反対する理由が考えられない内容になっていたからである。
 交換して橿原運動公園に新設する第一種陸上競技場、アリーナ、子ども遊園地などの新設のみならず、施設の高規格化、改修、撤去に至るまで県が費用を全額負担。橿原公苑についても、既存施設については市の考え方によるものの、国スポまでそのまま残すと市が認めた場合には、その維持管理費は県が負担。また、国スポ後に施設を撤去する場合の撤去費は、国が負担するとしていた。
 橿原公苑に市が施設を新設する場合の費用を除き、ほとんど県の責任で費用負担を明確にし、市の財政負担をかなりの面で圧縮した県の提案だった。県側の市に対する気遣いは、誰もが認めるところだ。亀田忠彦市長も「市の財政負担に配慮された良い案だ」と共感していた。
 ところが、市長と市議の実情認識などの違いからだろうが、市議会で県提案がついに通らなかった。市議会は県勢の将来に活気をもたらすためにも大所高所から見て、県の提案を受けてしかるべきだったのではないか。国スポの主会場・橿原は、当該の橿原市長だけでなく中南和の各首長、それぞれの議員も願っているはずである。
 今年2月の市議選では、亀田市長に近い勢力の自民党市議9人(当時)のうち7人が下位で当選、2人が落選した。今回の県提案書反対多数の陰に、自民党会派の中で感情論が残っているとすれば、今後の亀田市長の市政運営にとっても穏やかではない。
 県勢の均衡ある発展を掲げ、超党派で結成している県議会南部振興議員連盟(川口正志会長、11人)は、「橿原市を支援することは中南和の発展につながる」ことを常としている。橿原市政のトラブルの延長は、市民には不愉快極まりなく、県勢の展望にも大きな影響を与えかねない。市議は、このことを肝に銘じるべきだ。

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