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2021.5.31掲載  社説「時々刻々」

奈良市長選、旗幟鮮明避ける自民 前回選の教訓はどこへ

論説委員 染谷和則

 県都、奈良市の未来を決める奈良市長選、奈良市議選のダブル選まで1カ月余りになった。これまでのところ市長選には現職、新人ら4人が出馬すると見られている。現職への評価が同選の争点になるが、政権与党の自民党の奈良県連は、現職への評価、総括を避けているという状態だ。
 前回選も4氏が出馬し、現職と他市の市長経験がある候補との激戦になり、これを現職が僅差で制した。現職と他市の市長経験者の一騎打ちの構図が固まりつつあった告示前のぎりぎりのところの6月初旬、自民党は推薦で候補者を擁立。とにかく出遅れた感のあった出馬に票は浸透することなく、党関係者は「時間が足りなかった」と回顧、これが敗因の一つにもなった。
 今回も既に同様のタイミングになるまで自民党県連は態度を明確化していない。現職と近い関係にある県議が県連の要職にあり、また市議会の自民党会派にもこの県議の影響力が大きい。評価も批判もある現職に対し、これまでの市政運営の肯定も否定も避け続けている。
 またこの秋に衆院選を控える中、自民党は市長選に対して態度を明確化したくない意図も垣間見える。前回選の〝出遅れ感〟の教訓を生かすことはない。党関係者や党の政治家も十分にそのことを認識しつつも、自身の選挙や、その後の影響を考慮して避け、黙認している。県内一巨大な党組織、意思決定の難しさはあろうが、リーダー不在と言って間違いではない。
 市長選は、長年の課題だった火葬場の移転を実現したことを評価する一方、用地買収が鑑定額よりも著しく高かったことを問題視し、訴訟では市側が敗訴していることなど、その手法を批判する声もある。しかし、訴訟を含め、この戦いの構図は、現職、他市の市長経験者の前回選の「場外試合」が続いている。この構図には政治的な意図を感じ、うんざりしている市民も多い。
 市長選はもちろん市議選に対し、自民党は態度を旗幟鮮明にすべきだ。現職支持か、現職不支持の候補者擁立か。「現在協議して総括している」や「検討していく」など、選挙戦の熱が入ってもこの曖昧さは伝統手法になりつつある。 
 一部の県議、市議の中でも個別では現職支持、現職不支持とバラバラ。改選後の市議会も二分する可能性がささやかれているが、これらの責任は誰が取るのか。責任の所在も明確にしてもらいたい。
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