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2021.5.24掲載  社説「時々刻々」

赤字決算の奈良交通の方向性 新バス交通ネットワーク構築へ

論説委員 寺前伊平

 運行100年を超える県の優良企業、奈良交通株式会社(本社・奈良市大宮町1丁目、森島和洋代表取締役社長)の令和3年3月期(前年4月~今年3月)決算が公表された。純利益がマイナス19億円の赤字となったことに、驚きを隠せない。
 なんと19年ぶりの赤字決算になったといい、期末配当は昭和51(1976)年以降で初めて無配当にするという。しかも、来年3月期の業績予想については、新型コロナ感染症の影響が見通せないとして公表を見送った。
 同社は大きく乗合、貸切、生活創造―の3事業を展開する。乗合事業一つとっても、沿線人口の減少などに加えて、新型コロナによる緊急事態宣言が出された昨年4月~5月にかけて、生活路線、観光路線とも利用者が大幅に減少。同感染症第3波がそれに追い打ちをかけた格好だ。
 要因としては、小中高校や大学に至るまでの休校措置で家でとどまる時間が増えたことと、インバウンド需要がほとんどなかったこと。それと、テレワークが増加し通勤、通学者が路線バスを使用する機会が少なくなったことが大きいといえる。
 国土交通省の2020年度「テレワーク人口実態調査」によれば、雇用型就業者のうち、テレワーク制度などに基づくテレワーカーの割合は19・7%で、前年度の9・8%から倍増していることが分かる。「通勤が不要、または通勤の負担が軽減された」と、テレワークを実施して良かった点を挙げている。
 これらのことが、決算赤字に少なからず影響を与えているのは確かだが、新しい生活様式に対応する「バス交通ネットワーク」の構築が求められる。とにもかくにも、乗客のニーズに十分応えられなければならないだろう。
 宇陀市は昨年12月、バス運行に頼れない過疎地域の交通手段として、地域の住民が主体的に運転手となり、バス(ワゴン車)を走らせる有償バスの実証実験を試みている。  日本一広い村の十津川村では、一人で病院、買い物に行けない高齢者を含め「交通弱者」がかなりの数にのぼる。同村は今後、玄関口まで個別対応できるデマンド型タクシーと公共交通機関のバスとの住み分けを図りながら、利用者の利便性を上げていくという。
 ここ数年、人口減に伴い廃止バス路線となった地域も多い。奈良交通には安定した経営基盤を確立するための、民間事業者として利益追求は重要だろう。一方でもう一度、県内をくまなく見渡した上で、住民第一に公共交通機関としての役割を果たしてもらいたい。
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