奈良県内の政治経済情報を深掘

2021.5.10掲載  社説「時々刻々」

現代版鯉のぼりの光景に見る 出生・子育て支援が喫緊の課題

論説委員 染谷和則

 4月から5月初旬にかけて、県内の河川敷などで「鯉のぼり」が異様な数で泳いでいる光景を目にした。さすがに「大きい真鯉はお父さん 小さい緋(ひ)鯉は子どもたち」の音声はどこからも聞かれない。その下で子どもたちの姿さえない。
 鯉のぼりの裏側をのぞいてみると、核家族化が進行して子や孫が都会へ出て行ったまま、ほとんど親元には帰ってこない。
 お陰で、わが子が子どもの頃に買った「鯉のぼりセット」がそのままお蔵入り。それではかわいそうと、自治体の呼び掛けで1シーズンだけでも日の目を見ているのである。  鯉のぼりの光景ひとつとっても、少子高齢化の波が急速に進んでいることが手に取るように分かる。街中では、新型コロナウイルス感染症の影響を受けてのことだが、なぜか家の中で〝巣ごもり〟する子どもたちの姿を想像してしまう。
 先日、総務省が「こどもの日」に合わせて発表した15歳未満の子どもの推計人口(4月1日現在)は、なんと全国で前年より19万人少ない1493万人だった。昭和57(1982)年から連続の減少を示し、総人口に占める子どもの割合が11・9%にとどまった。
 国立社会保障・人口問題研究所が、平成22(2010)年10月1日の国勢調査人口を基軸として、都道府県別に15歳未満の子どもの人口予測を行っている。奈良県版を令和7(2025)年、同12(2030)年、同22(2040)年の3段階で見ていくと、それぞれ平成22年と比較して驚くべき減少率の数字がはじき出された。
 令和7年で26・8%、同12年では34・1%、10年後の同22年においては、42%まで激減する。令和12年、22年に至っては、総人口に占める割合が10%を初めて切り、それぞれ9・9%と9・8%と推測している。
 この数字を見て、間断なく少子化対策の拡充が重要であることは間違いない。全国で年間20万人近く15歳未満の人口が減り続けていくことになるが、顕著に低い奈良県の出生率を向上させるためには、各自治体とも安心して子育てできる家庭と地域をつくることを惜しんではならないだろう。
 具体的には▼若い男女が結婚できる経済的な環境整備▼葛城市が数年前から実施している高校生までの医療費無料化を含め、妊娠期からの切れ目ない子育て支援▼父親の子育て参画の促進▼県内での就職・再就職の支援―など。  冒頭の鯉のぼりが、各家庭で自然に揚げる日が将来、到来することを望まずにはおれない。
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