奈良県内の政治経済情報を深掘

2021.2.22掲載  社説「時々刻々」

多額の市費を投入して誘致した飲食店撤退 費用対効果の検証必要

論説委員 染谷和則

 地方行政、地方議会の大きな仕事の一つは財源を投じて行った事業の検証と評価だ。市民税、固定資産税、都市計画税をはじめ、住民から徴収した税金が正しく使われたか、また公平・公正の観点から逸脱していないか、事業毎にこれらの検証と評価をすることは責務と言える。
 新型コロナウイルスの対策に追われる国では、与党自民党の若手や中堅議員、大臣経験者までもが下村博文政調会長宛に「緊急事態宣言延長に当たって追加経済対策の申し入れ」を行い、持続化給付金の再支給や、経済的に苦しむ国民を対象とした10万円の給付などを柱にしている。
 これらは「われわれは要望した」という御旗を掲げるための「政治パフォーマンス」に見えなくもないが、前回の給付の問題や課題点を検証し、本当に苦しんでいる方々に届くシステムを構築しなければならない。
 新型コロナは県都の奈良市にも。今号の1面で報じた通り。市が特注の家具や家電製品、一部の調理器具までも用意し、誘致した飲食店が3月末で閉店する。市は全国で猛威を振るう新型コロナの影響が閉店の理由としている。
 本紙の取材に市は、同店の閉店、退去後の計画について「今後改めて入居する事業者を公募したいと考えている」とし、条件などを精査するという。店内にある市所有のこれら備品については「すべて置いて行ってもらう」としている。
 備品の使用料も取らない好待遇の条件に加え、近隣では考えられない格安の家賃なども考慮すると、このご時世に自己資金の切り崩しや借入など、必死の思いでやりくりしている民間の飲食店からはどのように見えるだろうか―。市の〝初期投資〟で商売をした6年間未満…。市民から徴収した数千万円を投じたその費用対効果については、是する意見はさすがに厳しい。
 当時、誘致の手法について議会は仲川元庸市長を追及した。その際の議事録を見直すと、1面記事の通り「バリュー・フォー・マネー(金額に見合った価値)になっているのではないか」と述べている。
 間もなく開会する市議会3月定例会で、市は説明責任を果たす必要がある。是は是、非は非を受け入れ、当時の誘致方法や市費を投入した範囲や度合いなど、検証と評価なしでは前に、次に進めない。
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