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2020.11.16掲載  社説「時々刻々」

「核兵器禁止条約」発効の意義 次は核軍縮へ向け世論つなげ

論説委員 寺前伊平

世界初の「核兵器禁止条約」が、来年1月22日に発効する。条約の発効に必要な批准国・地域が50に達したからで、広島・長崎の原爆投下の悲劇から75年経ての発効決定である。 この条約は核兵器の開発や生産、保有、移転、受け渡し、使用、威嚇(かく)などすべてを禁止する。批准した国・地域を列記すれば▼中南米21▼南太平洋10▼アジア7▼アフリカ6▼欧州5▼中東1▼北米0だ。 ただ、世界で唯一の被爆国・日本は署名していないことに疑問を抱く人も多い。「わが国のアプローチとは、異なるもの」(加藤勝信官房長官)ということだが、真意は「米国の『核の傘』に守られている日本は批准できない」という解釈のようだ。 昭和45(1970)年発効の核拡散防止条約「NPT」は、米国、ロシア、英国、フランス、中国の5カ国以外の国・地域が核兵器を持つ事を防止しようとしたもの。翌年の1971年には、日本政府が「持たず、作らず、持ち込まず」の非核三原則を決議した。 ところが、平成10(1998)年5月、NPTに締約していないインドとパキスタンが相次いで核実験を強行、被爆地の市民は核拡散に危機感を募らせた。この事態にいち早く反応したのが、日本の「ながさき平和大集会」(現『高校生平和大使派遣委員会』)に参加する約50の平和団体だった。 核の惨禍を知る被爆地ヒロシマ・ナガサキの声を世界に伝え、核兵器の廃絶と平和な世界の実現を目指し、高校生1万人署名活動を続けている「高校生平和大使」の役割は大きい。平成26(2014)年には、民間人として初の軍縮会議本会議場でスピーチに立った。 奈良県議会9月定例会では、日本共産党が提案した「日本政府に核兵器禁止条約の調印を求める決議」案に同調した創生奈良の川口正志氏が賛成を求めて演説。政権党の方針もあり議決されなかったものの、議員一人ひとりに対しては一定の共感を得たようだ。 米国5800▼ロシア6372▼中国320▼フランス290▼英国195―ともいわれる核保有の5カ国。中国の台頭に加え、NPTを平成15(2003)年に脱退し、核開発を進める北朝鮮との緊張関係が続く中、米国の「核の傘」に置かれている日本。 核兵器禁止条約発効を機に、まずは核保有大国が実際に核軍縮への道筋へと向かう条約づくりの流れになってほしいものだ。これまで以上の国際世論のうねりと平和活動に期待したい。
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