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2020.11.2掲載  社説「時々刻々」

耕作放棄地解消への課題 土地活用はまず地元からの発想で

論説委員 寺前伊平

放棄された土地や家屋などの活用のあり方が、喫緊の課題として浮上している。というのは、全国的に農地面積が減少し、逆に耕作放棄地は年々増加。一方で少子高齢化の波が止まらず、空き家が住宅地内でも目立つようになったからだ。 耕作放棄地に絞ると、平成27(2015)年の統計では、全国で約42万3000㌶。これは東京23区の全面積(約22万㌶)の2倍に近い数字だ。ここ10年で9540㌶が増えているという。 県内の耕作放棄率でいうと、21・2%(3633㌶)と全国10位、近畿では「ワースト1」というデータがある。中でも宇陀市の耕作放棄地は約500㌶に及び、県内で最も広い。同市はその解消の一環として、榛原比布、大貝など11の旧集落が残る伊那佐地区を特定農業振興ゾーンエリアに設定し、「大和高原宇陀ブランド」の開発を近く展開していく。 農業でいうと、米づくりから高収益が得られる果物、野菜づくりへ。冬場も作物を作る二毛作(米と麦、大豆、野菜など)への転換を図っていこうとする動きがある。単位面積の農業生産額が低下している事情が根底にある。 農林畜産業の活性化はもちろん、地元企業を育成したり、新たな企業を誘致したりするには、やはり土地の確保が重要。耕作放棄地のほか、農地が虫食い状態で残っているところもある。宇陀市のように、整序ある土地利用に向けた、地域ごとの特性に応じたゾーニングプランを検討する必要がある。 以前は県が都市計画を主体的にやってきたが、今は市町村が都市計画をしっかり作るように変わってきた。市町村がしっかりと都市計画を立てて、その上で土地利用計画を立案するとなれば、企業と地元の間をつなぐことになる。コーディネート役が自治体にある。 そうなると、地元で安心して仕事ができ、若い人のUターンや都会からの移住・定着にもつながる。子育てがし易い環境ができ、すべてが良い方向に絡んでくるのである。 整序ある土地利用に向けては、土地利用ビジョンを地元からの発想でつくることが肝要である。各地域プラン(まちづくり計画)を先に考え、それをマスタープラン化する。ビジョンをつくるため、地域住民の意見聴取を行い、自治会や土地所有者と共有することも忘れてはならない。 増え続ける耕作放棄地への歯止め。まず地域でしっかりと土地利用を考え、道路などインフラとの整合性を図ることを忘れてならない。
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