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2020.10.19掲載  社説「時々刻々」

「通称・70歳定年法」施行を前に 人手不足解消への期待乗せ加速

論説委員 寺前伊平

 ちょうど今から半世紀前の昭和45(1970)年、世の中は大阪万博で華やいだ。その2年後に田中角栄氏(元首相、故人)の『日本列島改造論』が発表され、瞬く間に全国的な国土開発が始まり、建設の仕事があれよあれよと増加の一途をたどった。
 社会のインフラや公共施設、商業施設、住宅などの〝ハコモノ〟建設の中で総合建設業(ゼネコン)が幅を利かせ、その下で請け負う多くの建設業者が繁栄を築いた。時代の流れとともに〝ハコモノ〟行政にかげりが見え始め、建設業そのものの危険信号が灯ったのも、最近の話ではない。
 5年後の令和7(2025)年には2回目の「大阪万博」が訪れようとしている。ここにきての新型コロナウイルス感染症による影響で、建設業を維持することができない中小企業・小規模事業者が廃業に追い込まれている。他業種もしかり。売り上げが昨年と比べて半減しているところも数多くある。
 家業の建設業を100年続けている橿原市の老舗企業も危機感を募らせている。地域への貢献と信頼関係で築きあげてきた企業だが、環境の変化の中で建設・住宅事業以外に土地活用の提案型事業に社業の発展をかけた。
 その裏には、土木や建築、設計の技術者・施工管理において常に人が足りない状態がある。引く手あまたなのだが、年齢に関係なく資格を持った技術者たちはスーパーゼネコン、ゼネコンの方へ行ってしまうからだ。「地域で何ができるのか」が思案どころではあるが、新たな事業展開を図ってこそ第2ステージが見えてくるはずである。
 新型コロナウイルス感染症の終息時期が見えない中、人手不足解消や社会保険制度の維持のため、60歳・65歳定年を70歳まで上げるシステムがスタートしようとしている。来年4月施行の「改正高年齢者雇用安定法」(通称・70歳定年法)で、企業に対して70歳までの就業機会の確保を努力義務とするものである。
 建設業を含め恒常的に人手が足りない業界、人材不足に悩む地方の中小企業にとっては労働力の確保は必至。健康で働きたいシニアが増えてきているのも事実。「70歳定年法」では、「努力義務」となっているが、将来的に「義務化」の可能性も視野に入っている。
 「人生100歳時代」が唱えられている。少子高齢化の中での高齢者雇用と年金制度の改正はセット。医療の発展とともに、一生現役で働き続ける時代の到来へ向け、「定年消滅」のワンステップと捉えたい。
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