奈良県内の政治経済情報を深掘

2020.9.28掲載  社説「時々刻々」

コストカットを訴え、公金むさぼる表裏2つの顔 不正額すべての返還を

論説委員 染谷和則

 京都、大阪、神戸…。4連休になった先週末は、奈良のまちに訪れる県外ナンバーの車が目立った。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、止まっていた人の流れや経済が徐々に動き始めたことを感じさせる。またこれまで「日常」だった観光客でにぎわう風景は「非日常」にも映る。
 五條市が建設した総合体育館へ、バスケットゴールや柔道畳、木製家具などの備品導入をめぐる官製談合事件は、いまだに「日常」を取り戻してはいない。捜査関係者が主犯格と見て逮捕・起訴した現職市議の牧野雅一被告(57)が長年、市が消防団に貸与している制服の入札に関与していた。この入札も不正が疑われる。
 今号の本紙既報の通り、県内他市よりも最大3倍もの価格で市が落札している。同被告が初当選する前まで営んでいた業者が長年落札していた。当選後は、体育館の物品導入の談合事件で逮捕・起訴された別業者が落札した事実もあり、牧野被告が長きにわたって色濃く関与してきたことがうかがえる。
 牧野被告は議会の本会議の場で「財政が厳しい中、新たな市役所を建設することは反対」「次世代に大きな負担を残さない確かな未来を」など、美辞麗句で理事者を追及する顔とは裏腹に、市の入札にはびこり、公金をむさぼっていた顔も持つ―。本紙の関係者への取材で同被告は、国産の高級車、外国製の超高級腕時計、不動産などを手に入れたようだが、いったいいくら、公金の不正に手を染めたのか。
 市議会は紆余曲折あったものの、牧野被告を中心とするこれら不正の全容を解明すべく、地方自治法に基づく特別委員会「百条委員会」の設置を決め、逮捕・起訴された業者や同被告らが関与した過去の入札などの調査に着手している。また太田好紀市長も本紙取材に「不正が認定されれば、市の被害額のすべてを関係者に請求し、返還してもらう」との姿勢を一貫している。
 現職市議、元市職員、業者らが長年にわたって狂気とも言える私利私欲に奔走し、公金をむさぼっていたこの事件の負を解消し、市民の手に日常を取り戻すことが、市役所と市議会の両者に強く求められている。公や政治への不信や、大きな負担を次世代に残さないためにも。   
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