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2020.9.14掲載  社説「時々刻々」

進まぬ避難所の耐震化 民間利用など有事へ備えを

論説委員 染谷和則

 県内12市が台風や地震の際の避難所に指定している公共建物の耐震化率が、全市の平均で89・89%にとどまっている。奈良県の39市町村の平均は90・27%(本年度総務省統計)、全国平均は94・18%(同)からすると、低調な数字と言わざるを得ない。
 県内各自治体の9月議会は、昨年度の決算審査と認定が大きな柱。この低調な避難所の耐震化率は、少子高齢化による税収の減少による経常収支比率(収入に対する支出の割合)の悪化をはじめ、財政が厳しい各市の台所事情が見え隠れする。
 耐震化率の低い市では、一旦駐車場や運動場へ避難をしてもらった後、災害の種類に合わせ、耐震性のある別の避難所や、協定を結んでいる民間施設の避難所へ誘導する対策などを採るとしている。要は大地震の際〝使用できない公共の避難所〟が生じる可能性があるということだ。有事の際この「誘導」がスムーズに行えるかは不安が残る。
 特別警報の可能性と最大級の警戒が呼びかけられた先日の台風10号は、避難指示・勧告が、九州、中国、四国の計約876万人を対象に出された。新型コロナウイルス感染防止のため、避難所では「三密」を避けるべく、各避難所は人数制限を設けた。その結果、民間ホテルへ自主的に避難する人が相次いだ。利用料金を補助する政府の「GoToトラベル」も相まって、台風進路のホテルは満杯になった。
 今後の有事の際、この流れがスタンダードになることも予想できる。体育館をはじめ公共避難所では高齢者、障害者はもちろん、基礎疾患がある人などへ新たな脅威となっている新型コロナへの対策など、難しい問題が山積している。
 奈良市では既に今年度から、台風や大雨などの風水害による災害の発生や、そのおそれがある場合の避難場所として、市内のホテルや旅館を1人一律1000円(24時間、予約制)で利用できる制度を整備した。
 大方の予測ができる風水害は避難の準備が可能なものの、避難予約のしようがない大地震の際、耐震性のない避難所では市民、県民の混乱を招くおそれがある。公共施設の耐震化は大規模な予算措置が必要になるが、知恵と工夫で民間の施設や活力を取り込み、有事に備える施策を講じる必要があるのではないか。
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