奈良県内の政治経済情報を深掘

2020.7.6掲載  社説「時々刻々」

生活保護費不正受給の実態 現場のヒアリング調査活かせ

論説委員 寺前伊平

 県議会6月定例会が閉会したが、今議会でひときわ「ギョギョ」とさせられたことがあった。県内の生活保護費の不正受給の多さである。しかも、ここ5年間の数値を見ると増え続けているにもかかわらず、県は何の法的対処もしていなかった実態が浮かび上がった。
 直近の確定値になる平成30(2018)年では、生活保護費不正受給の件数は548件、額にして2億588万8000円に上った。前年に比べても件数で60件も増加した。ほとんどが所帯の過少申告によるものだった。
 生活保護制度では、地域や世帯の状況によって支給される生活保護費は異なるが、本人が自らの所帯の収入や資産を申告することになっている。もちろん、預貯金、生活に利用していない土地、家屋などがあれば売却し生活に充てることが必要。
 さらに、年金や手当など他の制度で給与を受けることができる場合、まずそれらを活用。それでも収入が最低生活に満たない場合、厚労大臣が定める基準で計算した最低生活費から、収入を引いた差額を生活保護費として受け取ることができる。
 生活保護の基準額(昨年10月1日現在)は▼3人世帯(33歳、29歳、4歳)=13万5830円▼高齢者単身世帯(68歳)=6万5270円▼高齢者夫婦世帯(68歳、65歳)=10万2430円▼母子世帯(30歳、4歳、2歳)=16万4670円―など。
 申告場所は県内に15ある福祉事務所。担当者が生活状況や資産などをチェックし、申請から原則2週間以内で回答が届くという。無申告や収入過少申告が多いのも確かで、不正の事実が確認できない場合や担当者が見過ごした場合、不正受給が発生する。
 「生活保護を受けているのに、高級車を乗り回している」という話は、まことしやかによく耳にする。この話が事実として捉えれば、自動車は資産であり原則として処分し、生活保護のために活用するべきものである。悪質な不正事案である。
 にもかかわらず、不正受給に対して、福祉事務所は告訴、告発、被害届などは一切行っていない。
なぜ、事前チェックで不正受給を見逃したのか、首を傾けたくもなる。受給者の生活状況、外形的なことを綿密に把握していれば、未然に不正受給が防げたに違いない。
 荒井正吾知事は「不正受給の実態調査を現場(福祉事務所)からまずヒアリングしてやっていく」と答えた。遅きに失した感はぬぐえないが、ぜひその結果を公表して、不正受給を無くしていくためにしっかりと役立たせていただきたい。  
menu
information