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2020.6.22掲載  社説「時々刻々」

県内出生率1・31が問うもの 若者移住の東吉野村をモデルに

論説委員 寺前伊平

 先日、厚生労働省が公表した令和元(2019)年の人口動態統計によれば、1人の女性が生涯に産むと見込まれる子どもの数を示す合計特殊出生率が、県内では1・31だった。前年と比較しても0・06ポイントの減。全国平均の1・36をも下回り、全国8番目の低さである。
 少子高齢化の波はとどまるところを知らないが、それにしても県内で生まれた子どもの数が前年比624人減の8323人にとどまり、過去最少となった。村によっては、小学校の入学式が開かれなかったところもある。
 人口維持のための合計特殊出生率は、人口置換水準とされる2・07~2・08。時代を遡るが、大正14(1925)年には5・11、昭和5(1930)年には4・72の数値が残る。戦前最後の昭和15(1940)年は4・12。戦後は第2次ベビーブームの昭和45(1970)年代がほぼ2・1台で推移、その後も人口置換水準に近い数値を維持してきた。
 ところが、昭和49(1974)年に人口置換水準の2・08を割り込んだ以降は漸(ざん)減が続いている。県内の同出生率は平成16(2004)年に1・16と最小を記録した後に微増傾向であったものの、今回2年ぶりに下落した。
 県は令和元年から幼児教育、保育の無償化をはじめとする地域で子どもを健やかに育てる環境づくりや、女性が活躍できる場の推進を図ってきている。とはいえ、「県人口ビジョン」で発表していた同年の出生率1・40にも届かない厳しい結果となった。
 県内の場合、平均初婚年齢が夫31・4歳、妻29・7歳と、どちらも全国平均より遅かった。出生率低下の要因は、初婚年齢が高くなっている傾向にも表れる。ほかに未婚化、女性の高学歴化、住環境の問題、経済状況の悪化、社会風土の変化などが挙げられる。
 数年前から空き家登録制度を開始した東吉野村。都会からの若い移住者には、水回りなどの改修費に限度額100万円を補助。村に来た人が共有・共同で使える事務所「オフィスキャンプ」も整備したところ、3家族6人が移住した。若者にクリエーターとしての仕事ができるよう、全村に光ファイバー網を構築した。
 「新型コロナ問題」で騒動しい折だが、人口増につながる子育て支援について真剣に考えてみたい。若者が山村に移住して出産できる住環境を整備している東吉野村の取り組みこそ、絡まった少子化の要因を解きほぐしてくれそうである。奈良モデルにふさわしい。
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