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2020.4.27掲載  社説「時々刻々」

国の10万円給付をめぐり公務員などへの批判 今こそ多様性を認め合う時

論説委員 染谷和則

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、国や各自治体の給付金の話題があちらこちらで聞かれる。国は国民一人に所得制限を設けず10万円の支給を決めた。この10万円、議員や公務員、外国人まで支給する必要があるのかと議論を呼んでいるが、納税者ならばこの財源はきちんと受け取って使用すべきではないか。要は少しでも経済を好転させるその使い方に鍵がある。
 元大阪府知事、元大阪市長の橋下徹氏は「給料がびた一文減らない国会議員、地方議員、公務員は受け取り禁止!となぜルール化しないのか」とSNSに投稿した。「公務員叩き」として批判の声もある。広島県では、湯崎英彦知事が、県職員個人に支給される国の10万円を「県のコロナ対策の原資として活用することを検討する」と述べて波紋を呼び、この発言を撤回した。
 全世界の混乱の中、人間関係がとげとげしく、ピリピリとし始めていることを感じる人も多いだろう。答えのないものや自己の考えとは違うことを痛烈に批判することが続き、一部のマスメディアもそれを〝ネタ〟にしており、気が滅入る。
 そんな中、本紙が今号で取材した生駒市消防本部では、新型コロナ専用救急車の運用を開始し、迅速な出動に対応するために「特別救急搬送専属隊」の選任を進めている。この専属隊は3人3交代の9人編成だが、これに34人もの志願者があった。感染リスクがある中、命を救う最前線で戦うこの方々も公務員。心の底からの敬意を表したい。
 国が支給する10万円をめぐり、公務員を外せとか、議員はもらうなとの意見が出てくるのは、この困難の中で、先の見えない民間の苦しさがあることは一定の理解はできる。しかし、各々その仕事を選んだのは自分自身。そのプライドを持ってこの困難に立ち向かわねばならない。
 わが国、日本ほど多様性を尊重できる民族はないはずだ。山にも川にも森羅万象に八百万神を見出し、神仏共に手を合わせられる民族―。国から支給される10万円について、人のことをとやかく言うべきではない。生活の足しにする人も、寄付する人も、地元で使おうとする人もいるだろう。そうやって経済を回すべきだ。さまざまな意見の多様性を尊重してこの困難を乗り越えたい。
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