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2020.4.6掲載  社説「時々刻々」

財務省・宇陀市職員の自死を問う おとしいれる指令は重大責任

論説委員 寺前 伊平

 司馬遼太郎の短編小説『おお、大砲』では、明治維新の魁(さきがけ)とも言われる「天誅組の変」で、隊士が高取藩の大砲(ブリキトース)の威力を見せつけられ、退散するシーンが描かれている。
 今、某週刊誌の〝大砲〟が東京・霞が関めがけてうたれ、世間を驚かせている。学校法人森友学園国有地売却での決裁文書改ざん問題。この問題に絡んで平成30(2018)年3月に自死した、元財務省近畿財務局職員の赤木俊夫さん(当時54歳)が残した遺書全文が掲載されたからだ。
 赤木さんの妻は「夫がなぜ自死に追い込まれたのか、第三者委員会を立ち上げ、公平中立な調査を実施してほしい」として、安倍晋三首相、麻生太郎財務相らを宛先とする電子署名運動を始めた。
 遺書は生々しいものだった。当時、財務省理財局長だった佐川宣寿氏(その後、国税庁長官に昇進)を名指しして、「すべて佐川局長の指示です」などとしたためられていた。だとすれば、佐川氏の国会での答弁は「ウソ」であり、改ざんされた文書は明々白々。なのに、政府は「決着済み」として再調査を取り合わないでいる。
 自らの保身、出世のために、部下を犠牲にしているのである。真実を隠すために政治の力が働く。よく似たことが、県内でも。宇陀市立病院での電子カルテ導入による異常事態と、その後の保守契約業者選定の報告書作成をめぐり、責任を押し付けられた担当者が自死した。
 高見省次同市長の不信任決議案が可決された先月24日、提案理由説明の中で「1週間は7日ある。1日は24時間ある」と寝ないででも報告書を作成するよう、上司から指令を受けていた事が分かった。
 そして6日後、今度は市長が議会を解散、選挙となった。2年近く続く市長と議会の対立の構図が、1人の生命を断ち切ってしまったともとれる。この担当者は定年まであと1年を残しての死。遺書を残して。
 この件については、市の総務部長を中心に現在調査中のこともあり、遺族は沈黙を保っている。財務省職員だった赤木さん、宇陀市の担当職員、仕事に忠実でかつ熱心であったことが共通している。
ただ、犠牲となった人が本当に浮かばれるのかどうか。〝大砲〟の威力を借り、真実解明に向けての風穴を開けてほしいものだ。
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