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2020.3.16掲載  社説「時々刻々」

生駒市の電力調達〝高い値段〟で随意契約 血税垂れ流しの前時代的な失敗例

論説委員 染谷 和則

 環境モデル都市を標榜する生駒市などが出資して設立した「いこま市民パワー」だが、市は入札の方が安く電力を調達できる可能性が高いにもかかわらず、同社から電力を調達し続けている。人口減少や財政硬直と、厳しい課題が直面している中で、行政が自主財源の確保や「儲ける」ことが求められている。生駒市は時代に逆行したような施策で、前時代の土地開発公社の事業を見ているよう。
 本紙の取材に応じた市議の試算では年間1億2000万円が随契によって損をしているといい、これらはもちろん血税だ。この電力会社、設立の理念には電力の地産地消、利益の市民還元とあるが、これらの目標にもほど遠く、株主の大阪ガスから年間全体の96%以上の電力を仕入れ、市民サービスと言えば、極めて受益者が限定される携帯電話会社の子どもの見守りサービスを3カ月提供したのみ…。
 このシステムは誰が得する事業なのか。全国で成功例が多々あるにもかかわらず、また市議ら多方面で指摘があるにもかかわらず、市は頑なに〝失敗例〟のまま突き進み、都合の悪そうな「仕入れ価格」は非公表と闇の中。市が出資し、仕入れている電力会社の透明性や公平性が担保されていない。
 生駒市は市立幼稚園の教育時間終了後も希望に応じて延長して子どもを預かる「預かり保育」の利用料を値上げした。1日1回2時間まで300円だった従前の価格が1時間300円になり、子育て世代の負担増になっている。これまでに約1300人の保護者らから撤回を求める署名が提出されている。市主導の電力会社で利益を出し、これこそ市民サービスを充実させるべきところではないか。
 全国の自治体主導の電力会社は「従前より価格を安く」「市民の利益につなげる」「地産地消」などが設立の理念で、多くはこれらの目標を達成して成功している。一方の生駒市は▼従前より高い▼市民への還元が限定的▼仕入れのほとんどを大阪ガスに依存…と、失敗例と言わざるを得ない。
 県内他市町村のように入札にしていれば、年間1億2000万円のコストダウンになったと指摘し、市議が奈良地裁に提訴している訴訟を見守るほかないが、この1億円を超える損をしてまで行う事業かは疑問。この財源があれば、どれほどの市民サービスや未来への投資につながるか。


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