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2020.2.24掲載  社説「時々刻々」

都市計画決定後の「山林」評価は疑問 奈良市土地買収をめぐる不当判決

論説委員長 田村 耕一

 何かと問題があった日本の裁判制度について、近年見直しがすすめられた。その一つに、判決に至る時間の短縮化がある。それが原因と思わないが、最近首を傾けたくなるような判決が散見される。平成27年の淡路島での5人殺傷事件が、一審の死刑判決を覆し無期となった事件。平成30年、寝屋川市での強姦無罪事件などである。いずれも常識的には支持できない判決で、法制度の不備や裁判官の能力劣化などと悠長に言っている場合ではない。
 奈良市民109人が新火葬場の用地買収価格をめぐって、仲川元庸市長に1億6772万円の損害賠償を求めた判決にも同様のことが言える。
 判決では、土地購入費(1㎡当り約1500円)が、不動産鑑定額の3倍を超え高過ぎるとした。そもそも不動産価格は、土地に代替性がないことから「適正価格」を求めるのは難しい。また、土地の評価は一物多価と言われるように、公示価格や路線価など複数の指標がある。
 裁判で採用されたのは、「山林」としての鑑定価格である。しかしこの土地は、火葬場として利用すべく、平成29年5月に都市計画決定がされた。そして、同年12月議会で土地購入の予算が承認された。そうなると、専門的ではあるが土地鑑定評価上「宅地見込地」としての評価が成り立ち、土地価格は、1㎡約1500円の評価を大きく上回る。一般的に火葬場などの迷惑施設用地の買収は容易ではない。今回の判決は、用地買収をめぐる現場事情は考慮されず、鑑定価格にのみ軸足をおいた単面的な判断であるといえる。
 一方、この土地の地中に投棄されていた産業廃棄物の撤去費を、市が負担することは認めつつも、隣接地の追加買収は否定した。用地買収上、一団の土地としてしか買収できない場面の事情なども考慮されていない。
 この用地買収関連予算は、市議会の承認を得ており、仲川市長の専決処分ではない。そうなると、市議会の議決そのものにも違法性があることになるのではないか。また、市の財政事情からすると、その財源である合併特例債の活用期間が迫る中、建設地の確定と用地購入は喫緊であった。市の財政事情や行政課題を深掘りすることなく、用地購入価格にのみ焦点を当てた今回の判決は、正に平面的視座に基づくものであって、現実的行政視点からかけ離れた不当判決である。


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