奈良県内の政治経済情報を深掘

2020.2.10掲載  社説「時々刻々」

コロナウイルスの脅威県内にも 過不足ない情報の公開を

論説委員 染谷 和則

 昨年、厚生労働省が全国の公的病院の再編リストを公表したことをめぐり、県内でも波紋が広がっている=本紙令和元年12月16日既報=が、共同通信社のアンケート調査で全国の自治体の63%にあたる1132自治体が「不満」「やや不満」と感じていることが分った。

 この調査結果から言えるのは、厚労省が同一地域内の公的病院の平均水準を一定以上下回る病院に「診療実績が少ない」と判定し、同じような診療を行っている病院が近くにあるかをランキングして「類似かつ近接」の病院があるか否かを決め、機械的に弾いたところに誤算を招いたことだ。

 それに加えて、医療機関が提供する医療の内容、設立の経緯、地域で果たす役割も違うにもかかわらず、あえて地域事情を考えずにリストアップしたことが火種を広げた。

 全国424公的病院のうち、県内では県総合リハビリテーションセンター、南和広域医療企業団吉野、済生会奈良、済生会中和、済生会御所―の5病院が公表された。

 済生会中和病院名のリスト公表に対して、宇陀市・宇陀郡の住民からは「診療科が20科もある一番近い大病院。宇陀市立病院もあるが、すべて救急車を受け入れたり、緊急手術ができるわけではない。毎日やってない診療科もあり、中和病院にお世話になっている人は多い」と不満をこぼす。

 そもそも、政府の地域医療構想には2つのシナリオが織り込みずみ。それは、看護師などスタッフを手厚く配置するのに、医療費がかさむ「急性期」の病床が医療費を膨らませているとして、急性期病床をリハビリ用病床に転換すれば、長期入院も医療費膨張も抑えられること。分散する病床を集約して当直体制などを厚くすれば、勤務医の加重労働や地方の医師不足も改善されるというものだ。

 確かに、目の前には団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となる2025年度には、医療・介護費用が一段と膨れ上がる。国民医療費は同年度には4兆円に膨張するという。

 しかし、今回のリスト公表は今年9月までに各都道府県に対応方針決定を〝丸投げ〟しようとするあまり、拙速感はぬぐいきれない。国の所轄省としてお粗末極まりない。公表された病院、病院を信頼してきた地域住民の感情を逆なでしたことには何ら変わりはない。


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