奈良県内の政治経済情報を深掘

2019.11.25掲載  社説「時々刻々」

年々悪化する市町村財政 過度な〝議会改革〟は無用

論説委員 染谷 和則

 奈良県の39市町村の昨年度決算のうち、収入に対する支出の割合を示す「経常収支比率」が100%を超えたのは9団体あった。人口減少や高齢化による税収の減少で各自治体の財政状況は年々悪化している。これは奈良県の市町村の構造的な問題が背景にある。
 20年前の平成11(1999)年、全国には3232の市町村があった。「平成の大合併」を経て現在は1718まで減少している。人口135万人を切る奈良県は合併が進まなかった土地柄だ。一方、人口178万人を擁する隣の三重県は69市町村から29市町村にまでスリム化した。庁舎など保有の物件の管理費や公務員数、議員数なども合併を経て縮小している。
 このスリム化ができなかった奈良県は「奈良モデル」と称し、自治体間同士で共同する行政サービスのあり方を模索し続けている。逆に言えば「奈良モデル」を推進しなければ、県や各自治体の財政が将来的にもたない。
 先月末、総務省の地方制度調査会がまとめた答申では「自主的な市町村合併という手法は、行財政基盤を強化するための手法の一つとして引き続き必要」としている。「市町村の合併の特例に関する法律」は、本年度末の令和2年3月31日に期限終了になるが、調査会は同法の期限延長も提唱している。
 「平成の大合併」から20年も経過しない今、「令和の合併」がもうすぐ目の前まで迫ってきている。奈良県内の各市町村の決算の硬直化を見ても、財政健全化に向けた市町村独自の努力だけでは将来的にどうにもならないことは明らか。
 にもかかわらず「定数削減」「報酬削減」など、聞こえのよいスローガンばかりが市町村議会の選挙で踊る。各自治体の一般会計に占める「議会費」の項目は1%しかない。世帯年収500万円の家庭を例にすると年間5万円のレベルだ。
 過度な〝議会改革〟は次世代を担う若者が政治の場にチャレンジできなくなる土壌を作る懸念がある。ふるさとの「今」だけでなく「将来」を考える人材と広域的な政策立案が求められている。
 議会がこれらを真摯に取り組むなら、たかだか1%を必死に削減するより大きな財政改革につながる。有権者も議員報酬や政務活動費を「ムダ」とは言うまい。
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