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2019.11.18掲載  社説「時々刻々」

いじめ対策 全校で「笑い」集会を

論説委員 寺前 伊平

 県内の小中高校、特別支援学校が2018年度に認知した、いじめや不登校などの「問題行動・不登校調査」(文部科学省公表)によれば、いじめ認知件数は7468件で、前年度(5666件)に比べて大幅に増加した。うち、小学校では6054件を占めた。
 「冷やかしや、からかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる」が最も多い。中には曖昧模糊(あいまいもこ)とした罵詈雑言(ばりぞうごん)をあびせられた子どもがいたとしても不思議ではない。全国的に見れば、いじめを苦に自殺したケースがあり、いじめの大幅増加は「重大事態」として受け止めなければならない。
 この状況からは、完全に「わらい」の感情が失せている。「わらい」には、喜びをごく自然に表現する「笑い」のほか、うすわらいする「哂い」と蔑(さげす)みわらう「嗤い」がある。いま深刻化している「いじめ」には後者2つの「わらい」が幅を利かす。3つ目の「嗤い」は背筋が寒くなる。
 神戸市内のある小学校に至っては、教師4人の後輩いじめが大きな問題となっており、いつの間にか「加害教諭」「被害教諭」の新語が生まれた。加害教諭が被害教諭を羽交い絞めにし、激辛カレーを目や口に押し込む映像を見るにつけ、教育現場がこんなにぎくしゃくしているのかと、悍(おぞ)ましい気持ちにさせられる。 
 今、地球規模で17分野にわたる持続可能な開発目標(SDGs=エスディージース)への取り組みが注目されている。その考え方の基礎となっているのが「人権」。いじめ行為には、人間の尊厳の概念が抜け落ちている。「蔑む」以外に「罵(ののし)る」「誹・謗(そし)る」「苛(さいな)む」、これらの字の意味からして、発せられる言葉からは人の感情に敵意とともに重く突き刺さり、最悪の事態を招くことも。 
 10年近く前から年末、県境の東大阪市にある枚岡神社で通称・笑いの神事が執り行われている。宮司の合図で「あっはっはっー」と20分間、参拝者と笑い続ける。千人に及ぶ老若男女、外国人も交じって笑って心の〝岩戸〟を開こうというものである。
 枚岡神社のこの笑いの神事に一度参加していただきたい。いじめ対策には、確かにスクールソーシャルワーカーの配置などで子どもへの相談に応じることや、教員への研修を継続することなどは忘れてはならないことではある。ただそれ以上に大事なのは、教師と子どもとがお互いに笑って分かち合うこと。
 全校生、教師全員が週に1度や2度、体育館に集まり、校長の合図で「あっはっはっー」と20分間、腹の底から笑えるカリキュラムの時間をとっていただくことを提案したい。
 いじめ、不登校解消の糸口は教育現場に「笑い」を取り戻すことに他ならない。各自治体教育委員会にその責任姿勢が問われる。「笑い」こそ、真の「教え」と捉えてもらいたい。

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