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2019.11.11掲載  社説「時々刻々」

メディアの使命  許せぬ権力の奢(おご)り

論説委員 藤山 純一

 米ホワイトハウスは先月24日、アメリカを代表する新聞、ニューヨーク・タイムスとワシントン・ポストの購読を「すべての連邦政府機関で停止する。税金が大幅に節約できる」と発表した。
 両紙はこれまでトランプ大統領のスキャンダルを積極的に報道。最近ではトランプ氏が外交を利用し政敵を陥れようとしたといわれる「ウクライナ疑惑」を連日報じていることから、トランプ氏は両紙を「フェイクニュース」「民衆の敵」などと批判、「メディアは腐敗している」と豪語していたという。
 政権を批判するから購読をやめる、自分の言うことを聞かないから切り捨てる。まさに権力者の奢(おご)りであり傲慢と言わざるを得ない。現代社会のうっ積した側面だけとらえ、敵をつくって賛同した人々を煽(あお)り反対意見を押しつぶしていく。まさに戦前のファシズムにおけるメディアの統制を彷彿(ほうふつ)とさせる現象である。
 このことは我が国にとっても他人ごとではない。政権への忖度が強靭な官僚国家をなし崩しにしようとしている。今も記憶に新しい「森友・加計学園問題」しかりである。最近では萩生田光一文部科学相の「身の丈」発言で浮上したずさんな大学入学共通テストで活用される英語の民間試験の実態である。
 「民間任せ」で文科省への批判が高まっているが、地方に出向しているある同省官僚は「民間に任せればいいんだという官邸からの圧力があった」と証言する。この是非は突き詰めなければならないが、こうした国家権力を厳しく監視し是正させていく役割を担うのがメディアではないのか。
 こうした中で官邸から質問制限を受けるなど、一部メディアからの圧力にも屈せず権力に立ち向かっているのが東京新聞社会部記者の望月衣塑子氏だ。その思いを自身の著書「新聞記者」(角川新書)に記す。「多くの方に政治や社会の問題点を伝えていく。未来を担う子どもたちのためにも、今の自分ができることを一つ一つ積み重ねたい」と。
 今月15日からメディアのあり方を問う望月氏出演の「i新聞記者ドキュメント」が全国ロードショーされる。今こそメディアの再生が求められている。

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