奈良県内の政治経済情報を深掘

2023.2.20掲載  コラム「而今」
 60年以上も前のこと。田舎の我が家の納屋に、親牛と子牛がせいぜい2頭入るだけの牛小屋がつながっていた▼そこには常に雌牛が飼われていて、毎年1回は人工的に種付けが行われていた。丈夫なこって牛(雄牛)の赤ちゃんが産まれるように、と家族ぐるみで稲わらなどの干し草に米ぬかを混ぜて餌やりに専念した▼望みがかなって雄牛が産まれると、生後80日も経たない時期まで、はれ物に触るように大事に育てた。ついに、競りに出す日。牛小屋から連れ出す子牛を見て「モー」と大声で鳴き続ける母牛。大粒の涙がにじんでいるように見えた▼当時の雄1頭の価格は、何十万円にもなった。ところが、最近の競り市の状況はというと、雄1頭の平均価格は約3万円。わずか1000円でも、引き取り手が見つからないケースもあるという▼乳牛は乳をしぼれるように、一定数の子牛を産ませる。乳牛になれない雄の子牛は、競りを通じて肉牛として子牛を育てる畜産農家に売りに出される。県内の大和牛ブランド畜産農家も、飼料代の高騰に音を上げている昨今だ。(寺)
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